立証責任の配分
(※2012年8月1日 メルマガ配信分)
さて、税務調査の最盛期を迎えるにあたり、
しっかりと理解していただきたいのが「立証責任」です。
本ブログやセミナーでも繰り返し強調している
ポイントですが、税務調査で否認指摘を受けた場合、
否認指摘内容に関する立証責任、つまり
「なぜ否認になるのかという根拠を調べ、立証するのは
あくまでも調査官側の仕事だ」ということです。
・役員である社長の奥さんに対する役員報酬が、
勤務実態がないということで否認指摘を受けた
・接待交際費のうち、誰と行ったのかわからない
支出は個人的支出ということで認定賞与と言われている
・修繕費の内訳が不明確なため、その一部を
資本的支出として否認指摘された
これらはすべて、調査官に立証責任があります。
調査官が「損金として認めて欲しいのであれば
明確にわかる資料を出してください。資料がなければ
否認とします」と言うのは、立証責任の押し付けにすぎません。
私がこう伝えれば伝えるほど、信じてもらえない
ポイント(理由)が2点あるようです。
①本当なの?
まず、「立証責任が調査官にある」というのは
私個人の見解・主張であって、調査官に伝えても
納得してもらえないのでは?という疑念でしょう。
この点、「立証責任=調査官」というのは
数多くの判決・裁決で述べられているところです。
例えば、最近の裁決を読んでみてください。
「請求人は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した
一部の経費について、不動産賃貸業の遂行上直接必要であった
部分を明らかにしていないことから、当該経費を必要経費に
算入することはできないとした事例」
(平成23年3月25日裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/82/05/index.html
審判所の判断のなかに、明確に
「必要経費についての立証責任は、原則として
原処分庁にあると解すべきである」と述べられています。
②じゃあ納税者側に立証責任はないの?
「立証責任が調査官にある」というのは、
上記裁決内容にもあるとおり、あくまでも「原則」です。
もちろん、納税者側に立証責任がある場合もあります。
簡単に説明すると、
納税者が不利な場合=課税庁に立証責任
納税者に有利な場合=納税者に立証責任
となります。上記の裁決でも、
「一般に必要経費は請求人にとって有利な事柄であり」
などとして、納税者に立証責任を配分しました。
税務調査の現場で「通常」納税者に有利なことは
ほとんどないはずです。否認指摘された時点で、
納税者に不利なことばかりです。
ですから、否認根拠を固めるのは税理士の宿題ではなく、
調査官本人の仕事なのです。
立証責任がすべて納税者にあるというのであれば、
税務調査はどうやっても否認指摘をした調査官の勝ちです。
反論・反証されない限り、否認できてしまうのですから、
調査官は数多くの否認指摘をすればいいことになります。
現実的に考えて、こんなことは許されるはずがありません。
立証責任の配分というのは、非常に難しいテーマですが、
ここでわかっていただきたいのは、
「納税者が不利な場合=ほとんどの否認指摘」においては
調査官に立証責任があるということであって、
立証責任を押しつけられたら、明確に
「あなたに立証責任があるんですよ」と
きちんと主張するということなのです。
絶対に対応を間違えないでもらいたいポイントです。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
2012年8月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。