1粉飾の正しい是正法(税務的観点)~前半~
※2024年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
毎週水曜の本メルマガでは連載で「重加算税」について
解説していますが、今回は少し変わったテーマとして
「粉飾を税務上で是正する方法」を取り上げます。
なお、税理士・会計事務所が顧問先の粉飾を許容することの
是非論や法務リスクについてはあえて議論の対象にしません。
現実的に考えた場合、過去の粉飾を戻す誘因・動機となり得る
ケースとしては、銀行借入等のために粉飾していたが、
1 業績が良くなったので決算書を(徐々に)正常に戻したい
2 粉飾してなお追加借入ができなくなったので過大申告/納付
していた税金の還付を受けたい(更正の請求)
の2パターンが考えられます。
上記1の問題点は、粉飾を進行期の仕訳から戻そうとすると
計上していた(本来は存在しない)資産項目を取り崩す
「売上/売掛金」もしくは「経費/資産」という処理を
しなければならないことで、この処理・申告をした後に
税務調査に入られれば、如何に悪気がなくとも
「逆粉飾=脱税」とされ、重加算税のリスクが高いです
(通期で見れば同じ、という論理は税務署に通じない)。
実際に、事業会社が有価証券の売買損を計上せず
=粉飾して、後になって損失計上したことで
重加算税を賦課された公開裁決事例も存在します。
「本件事業年度の有価証券売却損は過年度仮装経理の
修正経理とは認められず、架空の損失の計上と認定した事例」
(平成11年2月23日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/57/22/index.html
次に考えられる是正手段として、過去の粉飾を
「過年度損益修正損」など損失として計上することです。
この是正方法はあくまで期ズレであることから、重加算税の
論点にはならないものの、多額の損失を計上することから
税務調査に入る可能性が高く、かつ如何に粉飾の是正である
ことを主張したところで、ほぼ確実に否認されるでしょう。
過去の粉飾是正を過年度損益修正損等で行った場合、
単に期ズレの是正=3期もしくは5期分でみると
増差が発生しない(加算税だけが実損)とはなりません。
2つのケースに分けて解説しましょう。
●時効年分が発生する場合
最も痛いパターンとしては、粉飾時期が税務上の
時効年分(5年超)になるケースです。
(N-5)期:所得100
(うち仮装経理部分300=本来所得は▲200)
N期:過年度損益修正損▲300を計上
(N+1)期:税務調査
とした場合、N期のみが期ズレの修正申告で、
(N-5)期は時効で是正不可能となります。
●調査対象年分に粉飾があった場合
次に、時効年分が生じないケースで考えてみましょう。
下記はあえて極端な例にしていますが、粉飾の時期が
5年以内であれば考え方は同じです。
(N-1)期:所得100
(うち仮装経理部分300=本来所得は▲200)
N期:過年度損益修正損▲300を計上
(N+1)期:税務調査
この場合、【本来であれば】
(N-1)期:▲300の減額更正
N期:+300の修正申告
=実質的には加算税分だけが課税
となるわけですが、粉飾=仮装経理の場合は
このような調査結果にはなりません。なぜなら、
粉飾である場合、税務署には是正義務がない
=粉飾期の減額更正をしてくれないからです。
法人税法129条(更正に関する特例)
内国法人の提出した確定申告書に記載された
各事業年度の所得の金額が当該事業年度の
課税標準とされるべき所得の金額を超えている
場合において、その超える金額のうちに事実を
仮装して経理したところに基づくものがあるときは、
税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、
その内国法人が当該事業年度後の各事業年度において
当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該修正の
経理をした事業年度の確定申告書を提出する
までの間は、更正をしないことができる。
このことから、税務調査対象期間内での期ズレで
あるにもかかわらず、税務調査の結末は
「N期:+300の修正申告」のみとなり、
過年度損益修正損を計上・申告したとしても、結局は
粉飾での過大部分は回復できない結果となります。
ここまで解説したとおり、進行期以降の処理で
過去の粉飾を是正する行為は、税務調査で
否認されるリスクしかないのです。
このことから、粉飾を(税務上で)是正するには
過去遡及して処理・決算を是正するしかないため、
【更正の請求をする】しか方法はありません。
ただし、粉飾=仮装経理を是正する更正の請求は、
一般的な更正の請求と相違し、かなり特殊ですから
来週水曜の本メルマガで詳しく解説することにします。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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