給与か?外注費か?
※2016年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「給与か?外注費か?」ですが、
平成26年7月1日の裁決をご紹介します。
さて、税務調査において、給与か?外注費か?が問題になることは
非常によくあります。
また、社会保険の未加入事業所への対応も厳しくなっており、
2016年1月19日の読売新聞には「厚生労働省と日本年金機構は、
保険料を払いたくないなどの理由で厚生年金への加入を逃れている
悪質な事業主について、刑事告発するかどうかを判断するための新たな
基準を策定する方針を固めた」とも記載されていました。
このような情勢の中、私自身、社員を外注に切り替えていくことを
提案するケースもあります。
場合によっては、社員本人がそのまま社員から外注先に変わるという
ケースもあります。
しかし、当然、社員と外注先では働き方などは違うべきであり、
「社員的」な働き方では税務調査で問題になります。
これに関して争われたのが本裁決であり、
「同じ店」で働く「別の」ホステスに対する支払いが給与と外注費に
分かれたという興味深い事案です。
当然と言えば、当然の話ではあるのですが、働き方などが違っていれば、
同じ店のホステスであっても、給与と外注費は分かれることがあるのです。
まずは、基礎事実の一部をご紹介します。
ハ 請求人が、インターネット上に掲載した本件店舗に係る求人情報の内容は、
要旨、次のとおりである。
(イ)営業形態 スナック
(ロ)雇用形態 フロアレディ
(ハ)時間 19:00〜24:00 勤務時間応相談、電車のある時間に
帰宅できる旨
(ニ)時給 3,000円〜4,000円 歩合あり
(ホ)上記のほか、(1)未経験者・大学生歓迎、貸衣装あり、服装自由、
ノルマ無し、常時8名ほどの女の子が出勤、客のほとんどが常連客である旨、
(2)勤務経験がなくても一から丁寧に仕事の仕方や会話術まで指導する旨、
(3)客と話をしながら酒を作ったりたばこに火をつけたり誰にでもできる
簡単な接客である旨など
ニ 請求人とこれらの者との間においては、雇用契約書又は請負契約書は
作成されていなかった。
ホ 請求人は、本件各期間の各月において、本件従事者に対し、
(1)■■■については売上げに応じた金額とホステスチャージ、ポイント
及び同伴料と称する各金額を内容とする金員、(2)■■及び■■■に
ついては日給又は時間給とポイントチャージ、ホステスチャージ、ポイント
及び同伴料と称する各金額を内容とする金員を支払っていた。
ヘ 請求人は、本件従事者に支払う金員について、当月分を月末で締め、
本件従事者の各タイムカード及び請求人が常連客の売上げ(売掛金)や
当該金員の支払等の管理のために備え付けていた売上帳(以下「本件売上帳」
という。)の記載内容等を基に、各人別に支払う金員などを計算して、
翌月10日頃に口座振込又は現金支給の方法により支払っていた。
その際、請求人は、各人別に、支払った金員の明細を記載した給料支払明細書
(以下「本件給料明細書」という。)を交付していた。
これに関する国税不服審判所の判断は下記ですが、結論から先に記載します。
■■及び■■■は、本件出勤表や各タイムカードにより出勤日や入退店時間、
従事時間、同伴、遅刻及び欠勤等を請求人によって管理され、請求人の指揮
命令に服して、空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務
又は役務を提供し、その対価として、日給又は時間給を基本とし、これに、
各人が接客業務を行ったか否かに関係なく得意客の飲食代金に応じ決定された
金額とホステスチャージ・同伴の実績等に応じ決定された金額が加算された
金員を、月払により支給されていたものというべきである。
そうすると、請求人が、■■に支払った金員及び本件金員(■■■に支払った
金員)は、いずれも所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当すると
認められる。
なお、■■■については、本件店舗において接客業務に従事していたことに
つき、請求人との関係において空間的、時間的な拘束を受け、請求人の
指揮命令に服していたとまではいえない上、■■■に対する金員は、■■■の
客の売上げの50%相当額に当該客のほとんどの者が支払っていたホステス
チャージ及び同伴料等が加算される支払体系であったこと、接客のために
費用負担をしていたことが推認されることからすると、所得税法第28条
第1項に規定する給与等には該当しないと認められる。
なお、この事例では「売掛金の回収責任」の有無も論点になり、
これにより同じ店のホステスでも判断が分かれたという意味もあります。
また、給与所得とされたホステスは美容代、衣装代などを自己負担
していましたが、これに関しては下記と判断されました。
■■や■■■は、交通費の支給を受けていない上、本件店舗における
接客業務のための美容代及び衣服代を自己負担していたと認められるところ、
これらの費用を自己負担することは給与所得者であってもみられること
であるし、美容代・衣装代については、接客業務の性格上、身だしなみ
あるいは容姿や服装など印象面に気を配ることがあるとしても、本件店舗の
求人情報にもあるとおり、本件店舗において接客業務に従事する者の服装は
自由とされているから、この点に関し必ずしも特別な準備あるいは用意が
必要とされているとは認められない。
なお、■■や■■■が、自身が担当する客が増えることを期待して本件店舗
での従事時間以外に客と飲食に付き合ったり、客へのプレゼント等を負担する
ことがあったとしても、客観的にみてそれらのことと請求人から支払われた
金員との間に直接的な関係はない。
いかがでしょうか?
東京における分かりやすい事例で言えば、
〇銀座のクラブのホステス:外注費(報酬)
〇六本木のキャバクラのホステス:給与
ということになります。
現実的にはホステスに対する支払いを給与として扱っているケースは
少ないでしょうし、税務調査でも問題にならないケースも多々あります。
しかし、これが論点になった場合は通常通りの給与か?外注費か?という
考え方になりますし、上記裁決は水商売以外の通常の事業会社においても
参考になるものです。
是非、覚えておいてください。
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