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2016.11.30

老人ホームの入居金は相続財産に該当するのか?

※2016年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「老人ホームの入居金は相続財産に該当するのか?」ですが、

平成25年2月12日の裁決をご紹介します。

相続税法第21条の3第1項第2号において、「扶養義務者相互間において

生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち

通常必要と認められるもの」は贈与税の課税価格に算入しないことと

されています。

これに関し、老人ホームの入居金に関して判断が分かれた2つの裁決を

私の著書「金持ちファミリーの「相続税」対策ここを見逃すな!」でも

解説しました(平成22年11月19日、平成23年6月10日)。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/81/11/index.html

http://www.kfs.go.jp/service/JP/83/20/index.html

これらはいずれも公開裁決ですが、今回は非公開裁決をご紹介します。

まずは、基礎事実です。

なお、相続開始日は伏字になっています。

〇被相続人は平成21年6月13日付で、本件会社が運営する介護型有料

老人ホーム(以下「本件ホーム」という。)への入居契約を締結した。

〇入居契約に基づく入居一時金について

・被相続人は、平成21年6月23日、被相続人名義の普通預金から

入居一時金7,980,000円を振り込んだ。

・本件会社は、平成21年9月30日、請求人名義の普通預金口座に

入居一時金に係る返還金を振り込んだ。

これに関し、原処分庁は下記と主張しました。

本件入居一時金は、本件被相続人名義の定期預金を原資とするものである

ところ、当該定期預金は、平成19年10月12日に満期償還された被相続人

名義の割引金融債31,000,000円を原資とするものであり、同21年

6月23日、当該定期預金を解約した金員の中から本件会社名義の普通預金

口座に振り込まれたものであるから、本件返還金は、本件被相続人の相続財産

として、本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。 

そして、納税者は下記と主張しました。

原処分庁が申告漏れであるとした本件返還金は、請求人が本件被相続人に

預けていた金員(以下「本件預け金」という。)について清算したもの

であるから、請求人に帰属する財産であり、本件相続税の課税価帰属する

財産であり、本件相続税の課税価格に算入されるべきものではない。

以下、国税不服審判所の判断ですが、請求人の答述以外に本件預け金の存在を

直接裏付ける証拠は見当たらないなどの理由から本件預け金の存在を否定

しました。

その上で、下記と判断したのです。

〇本件返還金は本件被相続人の相続財産であるか否かについて

・原処分庁は、本件返還金は本件被相続人の相続財産として本件相続税の課税

価格に算入されるべきものである旨主張するので、次に、本件返還金は本件

被相続人の相続財産であるか否かについて検討する。

・本件入居契約では、本件入居契約の当事者は入居者(本件被相続人)と

本件会社であって、返還金受取人(請求人)は契約当事者以外の関係者と

されている。また、本件入居契約では、入居者は自分が死亡した場合の入居

一時金の返還金の受取人1名を定めることとした上で、入居者が死亡した場合、

本件会社は上記返還金受取人に対して返還金を返還することとする条項が

存するが、本件入居契約には、入居者が死亡した場合に、返還金受取人と

なっていない入居者の相続人に返還金を返還することを可能とする条項は

存しないことに照らすと、本件入居契約に存する上記返還金受取人に関する

条項は、返還金の返還を請求する権利者を定めたものというべきである。

・上記のとおりの本件入居契約の内容によれば、本件入居契約のうち本件入居

一時金の返還金に係る部分は、入居者(本件被相続人)と本件会社との間で

締結された、入居者死亡時の返還金受取人(請求人)を受益者とする第三者の

ためにする契約であって、入居者死亡時の返還金受取人(請求人)は、本件

入居契約により、入居者(本件被相続人)の死亡を停止条件として、本件会社

に対して直接返還金の返還を請求する権利を取得したものと解すべきである。

・本件返還金は本件被相続人の相続財産であるということはできず、これを

前提とする原処分庁の主張は、採用することができない。

〇本件返還金の額は本件相続税の課税価格に算入されるべきものか否かについて

・本件返還金の額は本件相続税の課税価格に算入されるべきものか否かに

ついて検討する。

・相続税法第9条は、法律的には贈与によって取得したものとはいえないが、

そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の

経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為の防止、税負担の

公平の見地から、その取得した経済的利益を贈与によって取得したものと

みなして、贈与税を課税することとしたものである。

・本件において、入居者死亡時の返還金受取人である請求人は、本件入居契約

により、受益者として、入居者である本件被相続人の死亡を停止条件として

本件会社に対して直接本件入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を

取得している。この取得原因についてみると、贈与とは、当事者の一方

(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し、

相手方が受諾することによって成立する契約であるところ、本件入居契約の

内容は上記のとおりであるから、本件入居契約のみをもって、本件被相続人と

請求人との間に本件入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を贈与する

旨の死因贈与契約が成立していたと認めることはできないし、その他当審判所

の調査の結果によっても、本件相続開始時より前に、当該当事者間でその旨の

死因贈与契約が成立していた事実や、本件被相続人がその旨の遺言をしていた

事実を認めることはできないものの、(1)本件預け金があったとは認められない

こと、(2)本件入居一時金の原資は本件■■■定期預金の一部であると認め

られることからすれば、実質的にみて、請求人は、第三者(請求人)のために

する契約を含む本件入居契約により、本件相続開始時に、本件被相続人に

対価を支払うことなく、同人から本件入居一時金に係る返還金の返還を請求

する権利に相当する金額の経済的利益を享受したというべきである。

・請求人は、当該経済的利益を受けた時、すなわち、本件相続開始時における

当該利益の価額に相当する金額〔返還を受ける際に控除されるべき費用等が

あることから、当該費用等を控除した後の金額(本件返還金と同額)〕を

本件被相続人から贈与により取得したものとみなす(相続税法第9条)のが

相当である。

〇請求人は、本件被相続人から相続により他の財産を取得していることから、

相続税法第9条の規定により本件被相続人から贈与により取得したものと

みなされる利益の価額(本件返還金と同額)は、当該他の財産に加算され、

本件相続税の課税対象となる(相続税法第19条《相続開始前3年以内に

贈与があった場合の相続税額》第1項)。

〇本件返還金の額は、請求人の本件相続税の課税価格に算入されるべきである。

いかがでしょうか?

老人ホームの入居金に関しては、被相続人の状況、老人ホームの環境、

金額、返還金の有無などを契約書や相続人へのヒアリングにより、確認

しなければなりません。

過去には上記のような裁決も示されていることから、その取扱いには

十分な注意を払う必要があるのです。

 

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