脱税したお金を隠すなら
今回は、『郵政改革と銀行調査』がテーマです。
過去、全国銀行協会の永易会長が記者会見の席で、郵政改革の焦点となっている郵便貯金の預入限度額引き上げに強い反対の姿勢をしました。
現在の預入限度金額を1000万円から3000万円まで引き上げ、
段階的に限度額を撤廃する方針を政府が示したことによる反発です。
永易会長は「暗黙の政府保証があるゆうちょ銀行は信用力が決定的に違う。
地域金融機関で預金流出が起きれば大変なことになる」と述べています。
民間金融金融機関が破綻してペイオフが発動された場合、
元本のうち1000万円までしか保障されません。
このため郵便貯金の預入の限度額が引き上げられれば、民間金融機関に預けた預金のうちペイオフで、保障されない1000万円超の部分が
政府出資による「暗黙の政府保障」がある郵便貯金に流入しかねない。
といった懸念があったからです。
実は”民間銀行”対”ゆうちょ”の根深い因縁は過去に遡ります。
かつて「脱税したお金を隠すなら郵便貯金」と言われた時期がありました。
銀行は、現在は財務省-金融庁の監督下に置かれています。
つまり旧大蔵省の監督下にあったことになります。
銀行から見れば、国税も大蔵省の一部であり、同じ監督官庁となります。
ですから税務署は、銀行に対して強く出ることができました。
書面一枚で、容易に銀行調査の要請することができます。
もし調査に協力しないと、営業を差し止め強制的に調査することもできます。
そうなれば銀行は一大事ですから、迷惑と感じつつも協力するしかありません。
しかし、郵便局は旧郵政省の管轄にあり、旧大蔵省とは犬猿の仲でした。
郵便局は官庁のひとつで、税務署とはいわば同格です。
同じ国の役所とは言え、官庁同士の横のつながりはかなり悪いのです。
以前にも、大蔵省が金融緩和のために銀行金利を引き下げたのに、
郵政省が裏切って郵便貯金の金利引き下げを先送りしたことがありました。
このため銀行預金がごっそりと郵便貯金へと流れてしてしまい、
霞ヶ関の中で大喧嘩となったことがあるほどです。
税務署から郵便局へ調査の依頼を出しても、
郵便局から見ればそんな依頼は面倒が増えるだけです。
大した強制力もないため、よほどのことがない限り
郵便局が調査に協力してくれることはなかったのです。
それが「脱税したお金を隠すなら郵便貯金」だと言われてきた理由です。
現在は、郵政は民営化され、ゆうちょう銀行となり
他の銀行と同じ財務省-金融庁の監督下となりました。
財務省は郵政民営化の際、郵便貯金と簡易保険を支配できると確信し、積極的に協力したわけですが、昨年末、人事をめぐってひと騒動ありました。
政権交代が起きたことで風向きが一変。郵政民営化見直し案が浮上しました。
このままいけば事業を再統合しかねない動きすら出てきたのです。
もしも完全な見直しが進行し、現在の日本郵政が新しい経営形態になったら、この2つの事業が財務省の支配から再び逃げていくことになってしまいます。
官僚たちは、それだけは絶対に避けたい思いが強かったのでしょう。
そこで大モメの末、社長人事を元大蔵官僚の斎藤氏を擁立しました。
しかも、副社長のうちの一人にも元大蔵官僚が入っています。
“ミスター大蔵省”と呼ばれた斎藤氏をトップに据えたことで、
郵政改革見直しが大幅に後退していくことは容易に想像できます。
あのニュースの水面下では、こんな駆け引きがあったのです。
郵政改革の迷走は、まだしばらくは続きそうな気配です。
民間銀行とゆうちょの両者、簡単に呉越同舟とはいかないのかも知れませんね。
※2010年3月当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんので
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