複式簿記に基かない決算書と青色申告の取消し
※2014年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
本来はあってはならないことですが、中小企業の場合は経理が非常にいい加減
になっていることがあります。
だからと言って、何もかもが否認されてしまう訳ではありません。
実際、今回の裁決(平成11年6月14日)では、下記状況であり、
青色申告の取消し、重加算税の賦課決定がされましたが、青色申告の取消しに
関しては納税者の主張が全面的に認められました。
なお、納税者は青色申告の取消しについてのみ、審査請求しています。
○ 不動産の売買及び仲介斡旋を業とする同族会社
○ 納税者は土地取引に係る成功報酬につき、本件事業年度の損益計算書の
「利益之部」に「売上40,000,000円」と記載して法人税を申告
○ 原処分庁は本件事業年度に成功報酬300,000,000円を受領した
にもかかわらず、うち40,000,000円を帳簿書類に計上する方法
により、差額260,000,000円を隠ぺいしたとして、法人税法
第127条(青色申告の承認の取消し)第1項第3号に該当するとして、
青色申告の取消しをした
(参考)法人税法127条(青色申告の承認の取消し)第1項第3号
第121条第1項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号の
いずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号
に定める事業年度までさかのぼつて、その承認を取り消すことができる。
この場合において、その取消しがあつたときは、当該事業年度開始の日以後
その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前
に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。
三 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装
して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体に
ついてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること 当該事業年度
○ 税務調査の際、請求人は本件事業年度の所得計算の根拠として、経費の
月別総括集計表、不動産及び車両購入に関する内訳書、租税公課、
受取利息及び支払利息表並びにこれに付随する振替伝票6枚(以下「本件
会計資料」という。)の写しを提出した
○ 本件会計資料には、本件収入に関するものは存在しない
○ 請求人は本件事業年度の法人税の確定申告につき○○税理士を顧問税理士
として委任し、項目別・月別に分けた領収書(主に経費関係)に基づき、
確定申告書の作成を依頼したが、帳簿は作成していない旨を答述
結果、所得金額も本来の金額よりも相当額が過少となっており、かつ、
複式簿記による帳簿も無い状況ですので、ひどい状況ではあります。
この状況の中、国税不服審判所は下記と判断しました。
○ 法第127条第1項第3号は青色申告の承認を受けた内国法人につき、
その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装
して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに
足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は当該事業年度
までさかのぼって、その承認を取り消すことができる旨規定している
ところ、ここでいう「帳簿書類」とは、法人税法施行規則第53条(青色
申告法人の決算)ないし第59条(帳簿書類の整理保存)に定められた
青色申告法人としての仕訳帳と総勘定元帳その他必要な帳簿及び決算関係
書類並びに注文書等の書類をいい、青色申告制度の趣旨に沿って、青色
申告法人の営業成績の真実を把握できる程度に内容が正確であり、形式に
おいて整然かつ明りょうに記録されたものでなければならないと解される。
○ 青色申告法人の損益計算書は、青色申告法人の帳簿を締切り損益勘定を
整理集合して、その事業年度の損益を計算した決算関係書類、すなわち、
青色申告法人の一会計期間の経営成績に関する報告書であり、そこに記載
されている数値は個々の取引に関する記録ではなく、個々の取引は当該
損益計算書の基礎となる当該帳簿に記録されるものであるから、当該帳簿
が第127条第1項第3号に該当する場合には、当該損益計算書も同号
に該当するとして、青色申告の承認を取り消すことができるものと解すべき。
○ これを本件についてみると、各認定事実のとおり、請求人は本件会計資料
及び決算関係書類、いわゆる損益計算書及び貸借対照表を基礎として
本件事業年度の確定申告をしたところ、原処分庁は、本件会計資料及び
請求人の損益計算書は法第127条第1項第3号に該当するとして、
本件青色申告取消処分をしているので、次のとおり判断する。
○ 本件会計資料は、本件収入金に関する記載がなく、経費関係、不動産及び
車両関係、租税公課関係並びに受取利息及び支払利息関係のみに関する
断片的かつ雑駁な資料であって、請求人の日々の取引をその都度継続的に
記載したものとは到底認められないものであり、請求人の営業成績の真実
を把握できる程度に内容が正確で形式において整然かつ明りょうに記録
された帳簿であるとはいえず、かつ、当該資料からどのようにして請求人
の損益計算書及び貸借対照表を作成し得たのか全く不明なものである。
○ したがって、本件会計資料の記載には、本件収入金が隠ぺいされている
事実を認めることができず、そもそも同資料は、青色申告法人に要求され
た帳簿としての要件を具備していないから、法第127条第1項第3号に
該当する事実があるとはいえない。
○ 請求人の損益計算書は、青色申告法人としての複式簿記により経理を
行った帳簿から誘導、作成された書類とは認められず、外観的に青色申告
の基礎としての適応性を欠くものであるから、内容的に青色申告の基礎
としての適応性を欠くかどうかを判断しようとしても、判断の基礎を
欠いているというべきである。
○ 請求人の損益計算書の「利益之部」に「売上40,000,000円」と
記載した事実が真実か否かにかかわらず、青色申告法人の帳簿から導かれ
ることなく作成された請求人の損益計算書の記載事項が単独で法第127
条第1項第3号に該当するとはいえない。
○ 本件会計資料及び請求人の損益計算書には、取引の全部又は一部を隠ぺい
し又は仮装して記載し、その他記載事項の全体についてその真実性を疑う
に足りる不実の記載があるとはいえないから、原処分庁の主張には理由
がない。
いかがでしょうか?
法人税法127条第1項第3号における「仮装、隠ぺい」は重加算税を定めた
国税通則法68条に記載する「仮装、隠ぺい」と同義と解されるところ、
この事案では青色申告の取消しについてのみ争っているので、個人的には
重加算税も含めて争ったならば、どういう結果になっていたか?と考える
ところはあります。
それはともかくとして、ここまでの状況であっても、青色申告の取消しに
関しては納税者の主張が認められたという結果は非常に興味深いものが
あります。
春は税務調査が活発な時期でもあり、納税者の経理処理の状況がいい加減に
なっているケースで「青色申告の取消し」と指摘されるケースもあるでしょう。
しかし、ここまでの事例であっても、納税者の主張が認められている裁決は
現場で使えるものになりますので、是非、覚えておいて頂ければと思います。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。