認知症罹患(重度)の相続人がいる場合の遺産分割協議
※2023年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下でございます。
今回のテーマは
「認知症罹患(重度)の相続人がいる
場合の遺産分割協議」です。
前5回にわたり認知症罹患した場合に
どのような法律行為に影響を及ぼすかにつき
様々なケースを取り上げました。
今回は、税理士実務にも相当な影響を与える
認知症罹患した相続人がいる遺産分割協議
を取り上げます。
遺産分割協議を成立させるためには
1.全ての相続人が遺産分割協議に参加し
2.遺産分割内容に合意する
これが必要になります。
「認知症罹患した相続人」は上記2を
満たせないことになります。
つまり、意思無能力者であるため
遺産分割内容に合意することができません。
遺産分割協議が成立しなければ
・未分割申告(納税資金繰り)
・各種特例の不適用
(配偶者の税額軽減特例や小規模宅地等の特例等)
これらに影響を与えるため、遺産分割協議
が成立しないという事態は税理士
としては避けたいと思うところです。
仮に以下のケースを想定します。
■家族構成
被相続人:父
相続人:母(認知症罹患)、長男、次男
■相続財産
4億円
(これとは別に母が2億円を保有≠名義財産)
■長男、次男の考え
母は実家から相続した財産が多額にあるため
二次相続での負担を考え、一次相続では
長男と次男で2億円ずつ相続したい。
そのため、遺産分割協議における署名は
長男の妻が代筆で済まし、
母の実印で押印したい。
税理士として上記の相談を受けた場合、
どう対応すべきでしょうか。
長男、次男が納得しているため
このまま進めてしまってもいいでしょうか。
まず、母の代わりに代筆し、母の了承を得ずに
実印を押印した場合、有印私文書偽造等の犯罪
(刑法159条、161条)に該当します。
これ自体が犯罪行為となります。
また、それ以外に以下のリスクがあります。
1.税務上のリスク
母が認知症であることから、遺産分割協議が
無効であることを課税庁が主張する。
こちらについては、仮に無効となると
配偶者である母は法定相続分(2分の1)を
相続することになります。
この場合、法定後見人を選任し後見人が
遺産分割協議することで有効に成立しますので
配偶者の税額軽減特例や小規模宅地等の特例
を適用することが可能となります。
課税庁側にとって不利となる主張をするかは
何とも言えませんが、主張されないことも
十分考えられます。
2.将来の法的リスク
将来、相続人の誰かが無効主張する可能性は
ゼロではありません。
例えば、同じ評価額の土地が2筆あり、
それぞれを長男、次男が相続したこと
にします。
将来、長男が相続した土地だけが値上がり
すれば、次男は納得がいかないかもしれません。
その際、次男としては、遺産分割協議時に
母は認知症罹患していることを立証すれば
無効となる可能性もゼロではありません。
3.相続手続が進まないリスク
母の代筆をし、母の了承を得ずに遺産分割協議
を行えば、当該遺産分割協議は無効です。
この遺産分割協議書に基づき、預金を名義変更
し、その資金で長男と次男は納税しようと
考えるはずです。
例えば、母が認知症罹患している事実を
地元の信用金庫の行員が知っていれば
遺産分割協議書が無効であると疑う可能性
があります。
その場合、預金の名義変更が進まない
可能性は否めません。
そうなると、長男、次男は納税ができなく
なるため、リスクは増大します。
このように、様々な場面に認知症罹患は
影響する可能性がありますので、税理士
としては、安易に考えることなく毅然
とした対応をすることが自らのリスク管理
になるはずです。
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