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2015.11.10

課税処分と租税負担の錯誤無効

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「課税処分と租税負担の錯誤無効」です。

「そんな税金がかかるなら、この行為はしなかった・・・」

ということがあります。

ただし、このような場合は「基本的には」納税者の主張が認められない

ことが大半ですが、そうではない判決もあります。

納税者の主張が認められた事例としては岡山地裁(平成21年7月16日)

の不動産取得税の課税処分が取り消されたものや最高裁(平成元年9月14日)

の離婚による財産分与に伴う譲渡所得税の課税処分が取り消されたものが

ありますが、基本的には例外です。

裁判所の基本的な考え方は大阪高裁(平成17年5月31日)にも判示

されている通り、「申告納税方式を採り、申告義務の違反や脱税に対しては

加算税等を課して、適正な申告がされることを期している我が国の租税制度

の下において、安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を

認めて納税義務を免れさせることは、納税者間の公平を害するとともに、

租税法律関係を不安定にし、ひいては申告納税方式の破壊につながるものと

いえる。したがって、納税義務者は、納税義務の発生の原因となる私法上の

法律行為を行った場合、同法律行為の際に予定していなかった納税義務が

生じたり、同法律行為の際に予定していたものよりも重い納税義務が生じる

ことが判明したとしても、その法定申告期間を経過した後に、かかる課税

負担の錯誤が上記法律行為の動機の錯誤であるとして、同法律行為が無効

であることを主張することは許されないものと解するのが相当である。」と

なっています。

もちろん、これは法的に考えた場合にはそうなのでしょうが、

税務実務の現場では違う取り扱いがされることも少なくありません。

以前に、私はある税理士から農地法5条の農地転用による贈与に伴う

贈与税のご相談を頂き、贈与税の課税を回避したこともあります。

この事例はこういう流れでした。

その方は農地(倍率地域)の贈与なので、非常に安い固定資産税評価額を

ベースに土地評価額を計算すればよいと考えていらっしゃり、お客様は

贈与を実行いたしました。

しかし、その土地は宅地比準方式により評価すべきものなので、

税務署から問い合わせがあり、思わぬ贈与税の問題に発展したのです。

なぜ、こうなるかというと、贈与の時期は農地転用の許可があった日となり、

下記が根拠となります。

【 】2ヶ所は私が付けたものです。

○相続税法第22条(評価の原則)

この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得

した財産の価額は、当該財産の【取得の時】における時価により、当該財産

の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

○相続税基本通達1の3・1の4共-10(農地等の贈与による財産取得の時期)

農地法(昭和27年法律第229号)第3条第1項((農地又は採草放牧地の権利移動の

制限))若しくは第5条第1項((農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の

制限))本文の規定による許可を受けなければならない農地若しくは採草放牧地

(以下1の3・1の4共-10においてこれらを「農地等」という。)の贈与又は

同項第6号の規定による届出をしてする農地等の贈与に係る【取得の時期】は、

当該許可があった日又は当該届出の効力が生じた日後に贈与があったと

認められる場合を除き、1の3・1の4共-8及び1の3・1の4共-9にかかわらず、

当該許可があった日又は当該届出の効力が生じた日によるものとする。

○財産評価基本通達36-4

市街地農地とは、次に掲げる農地のうち、そのいずれかに該当するものをいう。

(1)農地法第4条≪農地の転用の制限≫又は第5条≪農地又は採草放牧地の

転用のための権利移動の制限≫に規定する許可(以下「転用許可」という。)

を受けた農地

(2)市街化区域内にある農地

(3)農地法等の一部を改正する法律附則第2条第5項の規定によりなお従前の

例によるものとされる改正前の農地法第7条第1項第4号の規定により、転用

許可を要しない農地として、都道府県知事の指定を受けたもの

だから、農地法5条に規定する許可を受けた農地は市街地農地となります。

そして、市街地農地の評価は財産評価基本通達40にもある通り、

宅地比準方式により評価することになるのです。

○財産評価基本通達40(市街地農地の評価)

市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル

当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と

認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、

土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに

国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した

金額によって評価する。

ただし、市街化区域内に存する市街地農地については、その農地の固定資産税

評価額に地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある農地の売買実例価額、

精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額に

よって評価することができるものとし、その倍率が定められている地域に

ある市街地農地の価額は、その農地の固定資産税評価額にその倍率を乗じて

計算した金額によって評価する。

(注)その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額は、

その付近にある宅地について11≪評価の方式≫に定める方式によって評価

した1平方メートル当たりの価額を基とし、その宅地とその農地との位置、

形状等の条件の差を考慮して評価するものとする。

非課税の範囲と思って贈与した土地が宅地比準方式で評価されるので、

私がご相談を受けた事例も贈与税は多額になっており、損害賠償の話も

出ていました・・・。

ただし、税務署と交渉し、「錯誤」により登記を戻し、贈与が無かった

ことにして、贈与税を免れることに至ったのですが、思わぬ贈与税の課税は

税額が大きくなることも多く、本当に焦るものです。

他の事例では「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の

非課税」について受贈者の合計所得金額の判定を誤り、税務署から問合わせ

があった事例もあります。

この場合は、その家屋を親との共有名義に登記を直すことで解決しました。

ちなみに、受贈者の合計所得金額とは所得税法第2条第1項第30号の

合計所得金額(第70条(純損失の繰越控除)及び第71条(雑損失の

繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第22条(課税標準)

に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額)です。

いずれにせよ、「課税処分と租税負担の錯誤無効」という論点に至らない

ようにすることが重要ですが、法的には厳しい状況にあるとはいえ、

課税実務の現場では柔軟な対応がされることも少なくありません。

特に、不動産が関係する場合は大きな税額に発展することも多いので、

ご注意頂ければと思います。

※ブログの内容等に関する質問は
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※2013年12月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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