調査官の勝負時
今回のテーマは、『調査官の勝負時』です。
前回もお話しましたが、最近の税務調査はあっさり終わっています。
1調査に割り当てられた日数は平均で2.0日です。
この20日の流れは、実地調査を行い、修正する項目があれば
納税者の同意を得て、署に戻り報告書にまとめ提出するまでを指しています。
納税者にとっては「ホントにあっさり終わった」が正直な感想なのでしょう。
私が調査官時代は、この1調査日数は4.0日割り当てられていました。
4日もあればかなり細かく調べることができたので、今の調査官は大変ですね。
しかし「不正を見つけるのは、初日の午前中」ということは以前と変わっていません。
調査が始まったばかりなのに?と驚かれる方も多いかもしれませんね。
もちろん確固たる証拠をつかむのは先の話ですが、私の経験でも
「このあたりが怪しそうだ」という予感は、8~9割方、初日の午前中でした。
通常、実地調査に入る時間は、午前10時です。
そこからしばらくは、納税者と雑談をします。
「最近、景気はどうですか?」「いや、なかなか厳しいですね」
といったごく自然の会話に始まり
「ゴルフが趣味なんですか?スコアはどのくらいですか?」
などの納税者に関する情報も集めていきます。
この時、調査官は何を見ているのか?
それは、納税者と立ち会った税理士の反応です。
雑談に気軽に応じているようであれば、
調査に協力的な人だ、几帳面な性格そうだと判断します。
警戒の節が強けば、気が強そうだ、何かを隠しているのでは?と感じます。
今後の調査の流れがここで決まってくるのです。
デキる調査官は、帳簿を見るフリをして
実は、納税者や税理士の反応を見ているのです。
事務所内のあるいろいろなモノにも目を配っています。
テーブルに置いてあるマッチ、壁に掛けてある絵画やカレンダー
机の上にあるメモや趣味に関わるようなモノまで細かく見ています。
取引先以外の銀行のカレンダーがあれば、隠し口座の存在を疑います。
営業先を書き記す白板がきれいになっていたら、何か隠しているかもしれません。
トイレやゴミ箱の中まで、何か重要な情報はないか見ています。
話を進める調査官とは別に、特に関心も無さそうに
まわりをウロウロしている調査官がいたら、まさにこの行為です。
納税者から帳簿の説明をひととおり受けた頃にはお昼です。
ここで1時間程度昼食で外出しますが、既にこの時には
「増差所得はいくらぐらいでそうだな」という話し合いがされているのです。
逆に何も怪しいところが見当たらない場合は
調査を早く切り上げることも視野に入れた方向性も検討します。
戻った後は、怪しいところを重点的に質問していきます。
「壁に日焼けした後が残っていますが、ここには何がありましたか?」
「このメモ帳は○×銀行のものですが、お取引はあるのですか?」
「接待は近所のお店が多いようですが、家族との食事ではないですか?」
当然、問いただす質問も、午前中に様子見をしていた
納税者や税理士の性格を考慮しながら進めていきます。
大胆にカマをかけることもあれば
じわじわと外堀から埋めていくケースもあります。
税務調査の流れのすべてが、この午前中に決まるのです。
『調査官の勝負時』は、まさに”初日の午前中”なのです。
※2010年5月当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんので
ご注意ください。
また、ブログの内容等に関する質問は、
一切受け付けておりませんのでご留意ください。