貸倒損失で更正の請求をする根拠をどう明示するか?
※2022年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガから引続き、取引先の
破産にかかる貸倒損失を取り上げますが、今回は
更正の請求をする場合【根拠を何にするか?】です。
更正の請求をする場合、その理由・事情の詳細などを
記載のうえ、その理由の基礎となる「事実を証する書類」
を添付しなければならないとされています
(国税通則法第23条第3項・施行令第6条第2項)。
特に、貸倒損失にかかる更正の請求の場合、
税務署における机上審査は厳しくなり、一般的には
口頭での説明を求められたり、追加の資料等を
要請されることが多いのは周知のとおりです。
まず、貸倒損失にかかる更正の請求をするにあたり、
通達9-6-3は根拠になり得ません。同通達では
「貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。」
と明記しており、更正の請求の要件を満たしません。
一方で、通達9-6-1に明記されている
民事再生法・会社更生法・会社法(特別清算)の
適用があった場合、さらに債務免除(債権放棄)を
した場合は、明示できる書類等さえあれば
税務署にとっては明確な判断ができますので、
更正の請求は通りやすいはずです。
先週までの本メルマガでもすでに解説したとおり、
取引先の「破産」による更正の請求ですが、
取引先(相手方)が法人か個人かによって、
明示すべき根拠・対応などが相違します。
●相手方が法人の場合
破産の場合、更正の請求の根拠を9-6-1と
記載すると、税務署は「破産は通達9-6-1に
記載がない」と主張してくることが多いので、
・法人税法第22条第3項第3号を根拠にする
⇒
会計上は「法的に債権が消滅した場合」に
貸倒損失が計上されますので、税務上も
同タイミングで貸倒損失が計上される
・相手方(法人)の登記簿を添付する
⇒
破産が結了していれば、相手方法人は閉鎖登記
がされていますので、法人格が消滅している
=「法的に債権が消滅した場合」に該当する
・併せて公開裁決事例も明示する
⇒
「請求人が有する売掛債権は、その債権が消滅した
事業年度の貸倒損失となるとした事例」
(平成20年6月26日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/75/21/index.html
・書籍を明示する
⇒
本来、貸倒損失の計上が認められるかどうかは
法人税法第22条第3項に該当するか、法令上で
判断すべきかと考えますが、税務署はどうしても
貸倒通達に該当するかで判断しがちですので、
法人の破産は通達9-6-1に該当すると
明示している書籍のコピーを提出した方がいいです。
「法人税事例選集(令和2年11月改訂)」(清文社)
732~733ページでは、上記公開裁決事例を
解釈して9-6-1に該当する旨を記載しています。
●相手方が個人の場合
登記などで外形的に法人格が消滅する法人と相違し、
相手方が個人の場合は、更正の請求を通すことは
かなりハードルが高くなります。
・法人税法第22条第3項第3号を根拠にする
⇒
これは相手方が法人の場合と同じです
・書籍を明示する
⇒
相手方が個人の破産の場合、判決・裁決などの事例が
ほぼ皆無なので、個人の破産も通達9-6-1に
該当すると明示している書籍を提出した方がいいです。
「法人の不良債権処理と税務の対応」(清文社)の
91ページでは、個人の破産について
「免責許可の決定の確定の時に消滅するものとして
貸倒損失の損金算入が認められる」として、
通達9-6-1の適用と結論付けています。
ここで共通の主張論拠は、通達を根拠とすると
「破産は通達9-6-1には載っていない」
=更正の請求の取下げ要請、もしくは
根拠を変更しての再提出要請とされることなので、
当初から通達を根拠に載せずに、法人税法第22条
に該当し、「法的に債権が消滅した」もしくは
「法的には残っているものの実質的に回収不能である」
ことを主張することが重要になります。
なお、先週までのメルマガの繰り返しにはなりますが、
相手方が個人の場合は破産しても法的には
自然債務が残るという考え方がありますので、
債務免除通知をしてから、その事業年度の
貸倒損失とした方が確実な処理かとは考えます。
今回のメルマガでは、あえて通達9-6-2には
触れずに解説しましたが、来週水曜の本メルマガ
では、9-6-2による更正の請求を解説します。
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