2016.03.24

貸倒損失の計上の是非

※2014年8月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

今回は「貸倒損失の計上の是非」ですが、

平成14年2月5日の裁決を取り上げます(全部取消し)。

貸倒損失の計上は微妙な問題を含んでいることも多く、税務調査でも問題に

なることがよくありますが、更正処分が取り消される事例も少なくありません

ので、本事例をよく覚えておいて頂ければと思います。

では、前提条件ですが、概要は下記となっています。

〇 請求人は、平成8年4月ころ、株式会社甲社(以下「甲社」という。)

  と、次表に掲げる物件1ないし物件10の土地又は建物(以下、物件1

  ないし物件4を「D物件」、物件5ないし物件7を「A物件」という。)

  を150,000,000円で買い受ける旨の覚書を取り交わした。

〇 平成8年8月7日付の日刊○○紙によれば、甲社は、2回目の不渡りを

  出し、同年8月6日に銀行取引停止となり、負債総額は約950億

  6,900万円である旨報じている。

〇 請求人の平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度の

  確定申告書に添付された勘定科目内訳明細書によれば、甲社に対する

  請求人の金銭債権の額は次表のとおりである。

・ 前払地代家賃 15,000,000円

・ 長期前払費用 201,405,599円

・ 差入保証金 20,000,000円

・ 合計 236,405,599円

〇 平成10年3月31日の決算修正仕訳によって甲社に対する前払い家賃等

  の金銭債権のうち164,016,392円を貸倒損失として計上

〇 これが更正され、重加算税も課された

実際には、なれ合い訴訟等が関係している部分もあって複雑なので、実際の

裁決文(TAINSコード、F0-2-057)をご確認頂きたいのですが、

審判所の判断は下記となりました。

〇 法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)第3項第3号は、

  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものは損金の額

  に算入される旨を同条第4項では、その損金の額に算入される額は一般

  に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する旨規定している。

  したがって、法人の有する金銭債権が債務者の債務超過等によって貸倒れ

  になった場合には損金の額に算入されるのであるが、その判断基準は、法

  人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて

  その全額が回収できないことが明らかになった場合に、その明らかになっ

  た事業年度において貸倒れとして損金経理することができると解するのが

  相当である。

〇 甲社の資力の状況等については、銀行取引が停止され、多額な債務超過が

  継続しており、休業状態にあること、また、繰返し土地を譲渡しているが、

  多額な譲渡損失が発生していることから、所有している土地の価値は大幅

  に下落していると認められ、本件和解が成立した平成9年12月11日に

  は、その資産内容は極めて悪い状況にあり、債務超過の状態が相当期間

  継続していたことが認められ、請求人は、甲社に対する金銭債権に対して

  担保物を有していないことからすると、甲社には、請求人の金銭債権を

  返済する資力はないと認められる。

  そして、請求人は、これらのことが甲社に対する金銭債権の全額が回収

  できないことが明らかになった場合に該当するとして、その明らかとなっ

  た平成10年3月期に、本件金銭債権を貸倒損失として損金経理したもの

  である。

〇 そうすると、請求人が本件金銭債権を回収不能な債権として貸倒損失に

  計上したことは相当と認められる。

〇 原処分庁は、本件議事録に記載された債権放棄の記録は後日に追加記載

  されたものであり、債務免除通知書も送付されていないから請求人が債権

  放棄をした事実はない旨主張する。

〇 しかしながら、本件のように債務者に破産、債務超過等の事実が実質的に

  存在し、債権の回収が見込めないような場合には損金経理による貸倒損失

  の計上が認められるから、本件議事録に債権放棄の記載があるか否か、

  あるいは債務免除通知書を債務者に送付したか否かといった形式的な事実

  をもって判断すべきではない。

いかがでしょうか?

貸倒損失計上の論点は「その全額が回収できないことが明らかになった」

事業年度に貸倒損失として計上すべき、となります。

もちろん、債権が発生してから短期間であっても「その全額が回収できない

ことが明らかになった」なら、貸倒損失の計上は認められますが、短期間で

あると、税務調査での否認指摘を受けて「1年は回収努力をしないと」など

と言われることもありますますが、当然に期間の基準などはなく、あくまでも

「その全額が回収できないことが明らかになった」か否かが論点となるべき

なのです。

 

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