貸倒損失の計上基準とは?
こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「貸倒損失の計上基準とは?」です。
貸倒損失を計上できるか否か?、その判断に迷う場合はよくありますが、
これに関し、所得税からのアプローチをしてみたいと思います。
まずは、参考条文をご紹介します。
〇所得税法51条2項(資産損失の必要経費算入)
2 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に
ついて、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに
準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、
その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の
金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
〇所得税法施行令141条(必要経費に算入される損失の生ずる事由)
第五十一条第二項 (資産損失の必要経費算入)に規定する政令で定める
事由は、次に掲げる事由で不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき
事業の遂行上生じたものとする。
一 販売した商品の返戻又は値引き(これらに類する行為を含む。)により
収入金額が減少することとなつたこと。
二 保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができない
こととなつたこと。
三 不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額の計算の
基礎となつた事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果
がその行為の無効であることに基因して失われ、又はその事実のうちに含ま
れていた取り消すことのできる行為が取り消されたこと。
〇所得税基本通達51-11(貸金等の全部又は一部の切捨てをした場合の
貸倒れ)
貸金等について次に掲げる事実が発生した場合には、その貸金等の額のうち
それぞれ次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する年分の当該貸金
等に係る事業の所得の金額の計算上必要経費に算入する。
(1)更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があったこと。
これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2)特別清算に係る協定の認可の決定があったこと。
この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、次に掲げる
ものにより切り捨てられたこと。
その切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を
定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の
協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受ける
ことができないと認められる場合において、その債務者に対し債務免除
額を書面により通知したこと。
その通知した債務免除額
〇所得税基本通達51-12(回収不能の貸金等の貸倒れ)
貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収
できないことが明らかになった場合には、当該債務者に対して有する貸金等
の全額について貸倒れになったものとしてその明らかになった日の属する
年分の当該貸金等に係る事業の所得の金額の計算上必要経費に算入する。
この場合において、当該貸金等について担保物があるときは、その担保物を
処分した後でなければ貸倒れとすることはできない。
(注)保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にする
ことはできないことに留意する。
これらを踏まえて、平成4年9月7日の裁決をご紹介します。
この事案は納税者は51-11を適用して貸倒損失を計上したが、
その要件を満たしていなかったという状況です。
当然、課税庁は51-11の要件を満たしていないので、貸倒損失の要件を
満たしていないと主張しました。
この場合、51-12(事実上の貸倒れ)を主張できるのでしょうか?
そして、審判所の判断は下記となりました。
〇所得税法第51条第2項によれば、その事業の遂行上生じた債権の貸倒れ
により生じた損失の額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の
金額の計算上、必要経費に算入すると規定されている。
〇この場合、資産損失となる債権の貸倒れとして認められるのは、債務者が
破産しあるいは私的整理にゆだねられた場合などのほか、債務者の債務
超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと
認められる場合において、債権者が債権放棄などその債権を整理する意向
を表明したとき、又は債務者の事業閉鎖、所在不明その他これに準ずべき
事情が生じ、その債務者の資産状況、支払能力などからみてその債権全額
の回収の見込みがないことが確実になつた場合であると解されている。
〇これを本件についてみると、B社※は、上記イ及びロの事実から、昭和62
年2月16日に和議の申立てをしたが、一般債権者への支払のための資金
等の確保ができず、また、同年11月11日には営業上欠かすことのでき
ない宅地建物取引業免許の取消処分を受けたこともあつて、和議による
負債整理は到底不可能となり、和議を取り下げざるを得なかつたことが
認められる。
※ 請求人はB社からの約束手形を受け取っていた
〇したがつて、遅くともB社が和議の申立てを取り下げた昭和62年12月
9日ごろには、本件約束手形に係る金員が回収不能となつたものと認める
のが相当である。
〇よつて、本件約束手形に係る金額5,677,750円は、昭和62年分
の貸倒損失として必要経費の額に算入すべきである。
当然と言えば当然ですが、実質的に回収不能である場合、51-11の
要件を満たしていなかったとしても、51-12を満たしていれば、
貸倒損失は認められるのです。
所得税法では「貸倒れにより生じた損失の金額は、その損失の生じた日の
属する年分の事業所得の金額の金額の計算上、必要経費に算入する」と
なっているので「損失が生じているか否か」という「実質的な回収可能性」
で判断すべきなのです。
ちなみに、東京地裁(昭和49年9月24日)では、「貸倒れの基準は債権者
が債権回収の真摯な努力を払ったが、客観的にみて回収見込みのないことが
確実となったこと」と判示しています。
もちろん、「真摯な努力」を払う期間は一定期間以上は必要ですが、
ここに基準があるはずもありません。
本事案のように営業上不可欠な免許の取消し等があれば、その期間が短くとも
「客観的にみて回収見込みのないことが確実」と言えるのです。
こういう場合、51-13(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)
を意識し、1年間は待つべきだという意見もありますが、あくまでも
「事実上の回収不能」が「客観的」に生じていれば、期間に関係なく、
貸倒損失は計上できるのです。
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※2014年1月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。