貸倒損失:債権は時効で消滅したか?
※2020年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
前回から「貸倒損失」について
解説していますが、今回から突っ込んだ内容です。
税務調査において貸倒損失が問題になりがちなのは、
貸倒損失を計上した内情が、
所得が(多額に)計上される(予定)
⇒ 所得・税額を減らす手立てを考える
⇒ 長年回収できていない売掛金を探す
⇒ その売掛金全額を貸倒損失に計上すると
欠損が生じるので一部だけ貸倒損失にする
というのが調査官に「見え見え」なので、
調査では厳しく追及されることになります。
さて、現実の税務調査を見ていると、貸倒損失を
否認指摘する調査官の論理・根拠が
間違っていることが非常に多いです。
例えば、下記のような調査事案が典型例です。
・11年前の売掛金を直近期で貸倒損失として計上
・税務調査では督促の事実などを確認された
・調査官は「債権の消滅時効は5年なので、
6年前の貸倒損失となるもので、直近期の
貸倒損失にはならず、税務上は時効」と主張
この調査官は、
時効期間が経過した
⇒
債権は法的に消滅した
⇒
消滅したときに貸倒損失とすることができる
という論理であり、あたかも正しいかのように
思えますが、これは間違っています。
税務の時効は5年もしくは7年という消滅時効を
経過すれば、それだけで時効が成立します。
しかし、(税金などではない)一般の債権は
時効期間が経過しただけで、債権が自然に
消滅するわけではない、ということです。
債権の消滅時効が成立するためには、下記
3つの要件をすべて満たす必要があります。
A:時効期間が経過していること
B:時効の援用がされていること
C:時効の中断(更新)・停止(猶予)事由がない
なお、Cについては該当する事案は実務上
少なく、かつ民法の理解が難しくなるので、
本稿ではCを除いて解説します。
上記の調査事案例でいえば、調査官は
Aの「債権発生から5年が経過している」
と主張しているだけであり、Bの要件は
確認してないので、論理として通っていない・
間違っているということです。
一般的にはBの時効援用(の意思表示)が
行われているケースはほぼ無いかと思います。
なお、税務調査において貸倒損失を否認される際、
最もダメージが大きいのは「税務上の時効が経過し、
損金にすることができない」(永久差異=流出
として処理)という事案です。
逆に言えば、過年度の貸倒損失を否認されても、
要件・条件さえ揃えば・揃えれば、以後に
貸倒損失として計上できるということであれば
あくまでも期ズレ(一時差異=留保)ですから、
そこまでの痛手とはなりません。
次回は、消滅時効の要件
「時効の援用」について解説します。
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