賃貸借の予約契約と貸家建付地
※2015年2月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「賃貸借の予約契約と貸家建付地」ですが、
平成7年11月14日の裁決を取り上げます。
貸家が建っている土地は借家人の権利により、土地の利用等が制限されている
という考え方から貸家建付地として、評価減が認められています。
本件は、相続開始日前に賃貸借予約契約が締結され、相続開始日後に実際の
賃貸借契約が締結された、という状況です。
では、この事案の前提事実です。
○相続開始日は平成3年8月10日
○本件建物は地下1階、地上9階建て
○被相続人とG社(同族会社、サブリース目的)とは、平成3年6月12日付
で、次の旨を定めた賃貸借予約契約を締結した
・本件建物の完成期日(平成3年10月16日予定)が確定したときは、
速やかに賃貸借契約を締結するものとし、これにより本予約契約は完結する。
・賃貸借期間は、その始期より10年間とする。
・賃料は、月額1,160万円(消費税は別)とする。
・敷金は2億7,000万円とし、G社は、賃貸借契約締結と同時に
被相続人にこれを預託する。
・G社は本予約契約締結後20日以内に、予約金として3,000万円を
被相続人に預託し、予約金は、賃貸借契約締結時に敷金の一部に充当する。
・両当事者が本予約契約の条項を履行しないときは、期限を定め文書をもって
各相手方にその履行を請求し、その期限を経過してなお契約の不履行が継続
するときは、本予約契約を解除することができる。
・この場合、違反した者は、3,000万円の違約金を支払う。
・特約として、G社は、中間金として平成3年7月末までに1,000万円、
同年8月末までに2,000万円を被相続人に支払うものとするほか、
内装模様替え及び解約予告に関する事項等を定める。
なお、サブリース会社であるG社はH社(第三者)と平成3年6月12日付
で賃貸借予約契約を締結し、実際に賃貸に至っています(1、2階)。
この状況の中、請求人(相続人)は下記と主張しました。
○本件賃貸借契約の内容は、そのほとんどすべてが本件予約契約※に記載されて
おり、改めて取り決めた事項はほとんどない。
※被相続人とG社の契約、G社とH社の契約の両方
○本件予約契約に基づき支払った予約金が本件賃貸借契約における敷金の一部
に充当されているので、このような本件予約契約は、予約と称し本契約の締結
を予定するものとはいうものの、実体的には、本件建物の竣工引渡日を賃料
支払開始日とする条件付で成立している本契約たる賃貸借契約というべき。
○本件予約契約の締結をもって、本件建物に関する賃貸借契約が締結されたと
解すべきである。
しかし、国税不服審判所は請求人の主張を認めませんでした。
○建物の賃借人には借家権はあっても、その賃借した建物の敷地に対して
借地権等の権利を有していないのであるが、経済的にみれば、賃借した建物の
敷地である宅地に対しても、建物の賃借権に基づく利用の範囲内で、ある程度
の支配権を有していると認められ、したがって、その貸家の敷地の所有者が、
借家人の宅地に対する支配権を消滅させるためには、いわゆる立退料の支払い
をする場合もあり、また、その支配権が付着したままの状態でその土地を譲渡
するとした場合には、その支配権が付着していないとした場合における価額
より低い価額でしか譲渡できない場合もあるため、その敷地の経済的価値が
自用地に比べて低くなっていることを考慮して、借家人の有する権利に相当
する価額を自用地としての価額から控除しているものと解される。
○相続税法第22条《評価の原則》によれば、相続により取得した財産の価額は、
その取得の時における時価によると規定されているところ、「取得の時におけ
る時価」とは、それぞれの財産の現況に応じて評価される価額をいうものであ
るから、評価基本通達26に定める貸家建付地、すなわち、貸家の目的に供され
ている宅地とは、借家法(大正10年法律第50号。借地借家法により廃止される
以前のもの。)ないし借地借家法(平成4年8月1日以降について)に基づき
建物の賃借人が有する権利、すなわち、借家権の目的となっている建物の敷地
として利用されているという現況にある宅地でなければならず、したがって、
貸家建付地として評価すべき土地は、相続開始の時において現実に貸付けの用
に供されている建物の敷地をいうものと解される。
○貸家建付地とは原則として、
(1)賃貸人等の所有する完成した建物が現実に存在していること、(2)賃借
人がその建物の引渡しを受けて現実に入居していることあるいは契約上の賃貸
借開始期日が到来していること、(3)通常の賃料に相当する金銭の授受が
あることあるいはその権利義務が発生していること等の要件をすべて具備する
建物の敷地をいうものと解することができる。本件予約契約は、賃貸借部分、
賃貸借期間、賃料及び敷金の額については、本件賃貸借契約とほぼ同一の内容
であるものの、本件予約契約には、賃貸借の予約に関する事項を内容とし、
その予約契約についての解除事項や譲渡禁止事項が定められているにすぎず、
本件賃貸借契約に記載されている現実の賃貸借に伴う契約当事者の権利義務の
詳細や賃貸借の実行、継続、解約等に関する細目内容については定められて
いないので、本件予約契約は、単に当事者間で将来本件賃貸借契約を締結させ
る義務を確認する契約と認められるから、本件予約契約の締結をもって事実上
の本件賃貸借契約の締結と解することはできない。
○仮に、請求人が主張するように、本件予約契約の締結をもって本件賃貸借
契約の締結がなされたと判断しても、本件相続開始日現在においては、本件
建物は完成しておらず、また、本件建物の賃貸借に係る賃料の支払もされて
いないので、本件宅地は、要件を具備しておらず、これを貸家建付地として
評価することはできない。
○請求人は、平成3年10月16日に本件建物の完成引渡しを受けたものであり、
本件相続開始日にはその引渡しを受けていないのであるから、H社の本件建物
への立入りは、本件建物の建築を完成させるため、請求人から無償で便宜が
供与されていたことによるものとしか解せず、本件建物の賃貸借に基づいての
占有が開始した結果とは認められない。
○請求人は、裁決例を引用して、建築中の建物の敷地であっても、その建物に
賃借人の支配権が及んでいる場合は、貸家建付地として評価すべきであると
主張する。しかしながら、請求人が引用する裁決例における判断は、従前から
貸家の用に供していた建物の建替えを行い、従前の賃借人が建替後の建物を
継続して賃借することが約束されている場合の建築中の建物の敷地についての
判断であり、そこでは、相続開始の時において建物を建替中であっても、
旧建物の賃借人に立退料の支払がなく、かつ、同人が引き続いて新建物を
賃借することが前もって約されている場合は、建築中の建物に当該賃借人の
従前の建物に係る占有権が及んでいるとみなしたものであるところ、本件建物
については、(1)従前からの賃借人は存在していないこと、(2)本件賃貸借
契約は締結されていないこと及び(3)H社が本件建物の賃貸借に基づいて
これを占有していた事実はないから、本件とは内容を異にするものである。
いかがでしょうか?
建物完成後は賃貸借契約が締結されることが確定している事実だけを見れば、
貸家建付地としての評価を採用したいという気持ちは理解できますが、
同様の事例で納税者の主張が認められなかったものは他にもあります。
たとえば、横浜地裁(平成7年7月19日、控訴棄却、上告棄却、確定)や
東京地裁(平成6年7月22日、控訴棄却、確定)などがあります。
なお、次回は本件における納税者が主張に使った裁決を検討し、
建替中であっても貸家建付地評価が認められた理由を検証したいと思います。
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