賃貸建物の取壊し費用は必要経費か?
※2015年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「賃貸建物の取壊し費用は必要経費か?」ですが、
平成26年12月9日の裁決を取り上げます。
この事案の請求人は不動産賃貸業を営んでおり、賃貸建物の取壊し費用を
不動産所得の計算上、必要経費に算入し、確定申告しました。
しかし、当該費用は必要経費ではないとして、更正された事案です。
では、本件の基礎事実、認定事実です。
○請求人は、本件各年分において、複数の不動産を賃貸する不動産賃貸業を
営んでいた。
○請求人による土地及び建物の取得
請求人は、■■■■■■■■、請求人の父である■■■■の死亡に係る相続
(以下「本件相続」という。)により、本件土地及び本件土地上にある
本件建物を取得した。
○本件土地及び本件建物の賃貸借契約
本件土地の一部及び本件建物の一部は、本件相続時において、■■■■に
対して、月額賃料3万円で貸し付けられていた(以下、この貸付けに係る
賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。
その後、■■■■が■■■■■■■■に死亡したことにより、同人の娘
である■■■■が、平成23年1月、請求人に対して、本件賃貸借契約を
解除したい旨の申出を行い、本件賃貸借契約は、同月で解除された。
○本件建物の取壊しに係る費用
請求人は、平成23年3月頃に本件建物を取り壊し、本件建物の取壊しに
係る費用を支払った。
○本件土地及び本件建物の利用状況等
■■■■は、本件賃貸借契約に基づいて借りていた本件土地上に、本件建物
に隣接する別の建物(以下「■■■■」という。)を建てて居住しており、
本件建物の店舗部分において、八百屋等を営んでいた。
なお、本件建物及び■■■■は、外観上は一体となって区分することが
できない状態であった。
○本件建物の取壊し
・■■■■は、平成23年1月、請求人に対して、本件賃貸借契約の解除を
申し出るとともに、■■■■を取り壊す旨伝えたところ、請求人は、本件
建物と■■■■が一体となっている状態であること、及び本件建物が老朽化
しており、本件建物を残した状態で本件土地の賃借人を探すことは困難
であることから、■■■■の取壊しの際に、本件建物も取り壊すこととした。
・■■■■は、平成23年1月下旬に、■■■■■■■■■に対して本件
建物及び■■■■の解体工事に係る見積りを依頼した。そして、同社は、
平成23年3月7日に本件建物の解体工事を開始し、同月19日に本件建物
の取壊しが完了した。
・請求人は、■■■■■■■■■■■に対して、本件建物の水道の撤去工事
を依頼し、同社は、平成23年2月28日に本件建物の水道の撤去(蛇口の
取壊し)を行い、同年3月14日に本件建物の取壊し工事に伴う仮設水栓の
設置及び量水器の移動を行い、本件建物の取壊し後に上記仮設水栓の撤去を
行った。
○本件土地に係る管理等の依頼
請求人は、本件建物の取壊し後の平成23年頃、■■■に対して、本件土地
の新たな賃借人の選定及び管理を依頼し、■■■はこれを了承したが、
請求人から、賃借人の選定条件や管理方法等についての具体的な指示はなく、
■■■が、請求人に対して本件土地の利用計画等を提案したり、賃借人の
募集に関して具体的な行動を起こしたりしたことはなかった。
○原処分に係る調査
本件調査担当職員は、平成25年4月9日、本件土地に出向いてその状況を
確認したところ、本件土地にはロープで囲いがされて雑草が生えており、
本件土地を賃貸していることや賃借人を募集していることを示す表示等は
なかった。
○本件土地に係る新たな賃貸借契約の締結等
請求人は、平成25年5月ないし6月頃、本件土地に駐車場の賃借人を募集
する旨の看板を設置した。
そして、請求人は、平成25年10月24日、■■■■■■■■■■■に
対して、期間を同年11月1日から平成27年10月31日まで、賃料を
月額3,000円として、本件土地を駐車場として賃貸した。
この状況の中、国税不服審判所は下記と判断しました。
○法令解釈
所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得等の金額の計算上
必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの
所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に
要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの
所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しているところ、
同項に規定する「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を
生ずべき業務について生じた費用」とは、当該支出が不動産所得を生ずべき
業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものに限られると解する
のが相当である。そして、その判断は、単に当該業務を行う者の主観的判断
によるのではなく、当該業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念
に従って客観的に行われるべきである。
○当てはめ
本件建物は、本件賃貸借契約が終了する平成23年1月まで賃貸用建物
として事業の用に供されていたものであり、請求人は、■■■■が本件
賃貸借契約の解除を申し出た際に、本件建物を取り壊すことを計画し、
本件賃貸借契約終了後速やかに本件建物の取壊しを実行したことが認められ、
他方、本件賃貸借契約終了後に本件建物が家事用に転用された事実や、
本件建物の取壊し後に本件土地を譲渡する計画があったなどの事実は
認められない。
○そして、建物賃貸業においては、建物の取得、賃借人の募集、賃借人への
貸付け及び建物の取壊し・廃棄までが事業の一連の通常の流れであって、
建物の取壊し費用は、建物賃貸業を行う上で通常発生する費用であると
いえることに加え、賃貸借契約期間中に事業用資産である建物の取壊し・
廃棄を行うことは不可能であることからすると、当該建物が家事用に転用
されたなどの事情がない限り、賃貸借契約終了後の建物の取壊し・廃棄は、
いわば建物に係る貸付業務の残務処理的な行為であるというべきである。
○そうすると、本件賃貸借契約終了後速やかに行われた本件建物の取壊しは、
本件建物に係る貸付業務の残務処理的な行為であるというべきであって、
本件取壊し費用は、本件建物に係る貸付業務と直接関係し、かつ、当該業務
の遂行上必要なものであるということができる。
したがって、本件取壊し費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上
必要経費に算入することができる。
○原処分庁の主張の当否
原処分庁は、本件判決(見田村注:東京高裁、平成5年12月13日)を
引用した上、本件土地は、近い将来において確実に貸付けの用に供される
ものと考えられるような客観的な状態にあったとは認められないとして、
本件取壊し費用は、平成23年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に
算入することができない旨主張する。
しかしながら、本件判決は、いまだ貸付けの用に供されておらず、所得を
獲得したことがない土地に係る固定資産税等を不動産所得の金額の計算上
必要経費に算入することができるか否かが争われた事案であり、貸付けの
用に供されていた建物の取壊しに係る費用を必要経費に算入することが
できるか否かが争われている本件とは、その前提が異なるから、本件判決を
引用することは妥当ではない。したがって、原処分庁の主張には理由がない。
本事案における取壊し費用は当然に認められるべき必要経費と考えますが、
裁決にまで至ったことも事実です。
どんな建物もいずれは朽廃しますので、*NAME*さんが立ち会う税務調査に
おいても同様のことが起きる可能性があります。
そういう意味において、是非、この事案を覚えておいて頂ければと
思います。