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2015.08.10

賃貸物件の空室期間と貸家建付地の評価

今回は「賃貸物件の空室期間と貸家建付地の評価」です。

相続税の申告において財産評価をする場合、

アパートなどの賃貸物件の敷地は貸家建付地の評価となります。

もちろん、満室ならば何の問題もありませんが、

その一部が空室の場合、賃貸割合をどうすべきかという論点があります。

そこで、今回はこれに関する裁決、判決を取り上げてみたいと思います。

まず、財産評価基本通達26を確認しますが、この注書きには「上記算式

の「賃貸されている各独立部分」には、継続的に賃貸されていた各独立部分

で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを

含むこととして差し支えない」という記載があります。

また、国税庁の情報(資産評価企画官情報第2号 平成11年7月29日)

によれば、次のような事実関係から総合勘案するものとされています。
 
1、各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか。

2、賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか。
 
3、空室の期間、他の用途に供されていないかどうか。

4、空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど

  一時的な期間であるかどうか。

5、課税時期後の賃貸が一時的なものでないかどうか。

さすがに、空室があっても当たり前というご時世に3の「1か月程度」を

形式的に適用している税理士はいないと思いますが、「一時的な期間」に

基準がないことも事実です。

では、具体的な事例を通して考えてみましょう。

<平成20年6月12日、裁決>

○ 相続開始日において、全20室のうち4室が空室

○ 空室のうち、204は相続開始日において空室期間は1年11か月で、

  再入居は平成17年1月

○ 相続開始日が伏字にはなっているが、申告日が公開されており、

  相続発生から申告まで10か月と仮定すると、相続開始は平成16年6月

○ この仮定を前提に考えると、空室期間は2年6か月

→ 相続開始から申告まで6か月とすれば、2年2か月が空室

○ 納税者の主張が認められた(貸家建付地OK)

<平成21年10月13日、裁決>

○ 空室期間は約9か月間

○ 賃貸住宅が沢山建っている地域であり、すぐに賃借人が決まる状況では

  なかった

○ 納税者の主張が認められた(貸家建付地OK)

<平成7年7月19日、横浜地裁(控訴棄却、上告棄却、確定)>

○ 相続開始は昭和61年8月

○ 新築マンションで相続開始時は21室中4室のみ入居

○ 相続開始の約1年半後には1室を除いて入居済

○ 納税者敗訴(貸家建付地の評価はできない)

なお、この横浜地裁の判決の類似事例(納税者敗訴)として、

昭和63年11月7日相続開始の東京地裁(平成6年7月22日、控訴棄却、

確定)や平成7年11月14日の裁決があります。

いかがでしょうか?

賃貸不動産の空室は本質的には価値が落ちるものであるにも関わらず、

財産評価額は上がってしまうというナンセンスな側面もあります。

ただし、バブル前後の賃貸不動産の状況と最近の状況を同じテーブルで

考えることには無理があります。

そういう意味では上記事例の前者2つ(平成20年、21年)で

納税者の主張が認められている事例は貴重な存在です。

もちろん、どの程度の期間までがOKという基準もありませんが、

私見では平成20年の裁決を根拠に約3年まではいけるか?

とも考えています。

この場合は相続人に対するリスク説明は必要なのでしょうが。

また、この裁決をベースにした説明文書も付けておいても

いいかもしれません。

もし、皆さんが作成する申告書で同じような事案があれば、

是非、これらの裁決の全文をお読みになってみてください。

空室があっても当たり前という時代の中、不動産をどう評価するかは

相続人にとって大きな問題です。

明確な基準がないだけに保守的になる可能性もあるかと思いますが、

積極的に評価すべき場合も多々あるかと考えます。

 

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2013年5月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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