資本的支出と修繕費の分岐点
さて、今回は「資本的支出と修繕費の分岐点」です。
いきなりですが、皆さんが顧問先の社長から下記の質問を受けたら、どうお答えになりますか?
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先生、うちのビルなんですが、陸屋根(屋上が平らな状態)なので、どこから雨漏りしているか分からないんです。
そこで、雨漏り防止のため、陸屋根の上に鉄骨を組み、アルミトタンで屋根を葺く工事をしようと思います。
ただ、見積りを取ったら、2,000万円以上もかかるのですが、
これは修繕費でいいですかね?
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金額も2,000万円以上であり、新たな物も付け加えられていますので、場合によっては「資産計上ですね」と答えてしまうのではないでしょうか。
しかし、これは修繕費でOKであり、その根拠となる裁決(平成13年9月20日)があります。
ちなみに、TAINS番号は「F0-2-119」です。
まず、各建物の修繕費の額、取得年月を記載すると下記となります。
○ A建物 1,450万円(平成9年12月期)、昭和47年7月
→ 雨漏りが20か所以上で、毎月、水漏れ防止剤で修理
○ B建物 1,100万円(平成9年12月期)、昭和57年2月
→ 何回も防水塗装等を行ったが、雨漏りは続いていた
→ 陸屋根のため、雨漏りの場所が特定できず
○ C建物 2,170万円(平成10年12月期)、昭和52年6月
→ 平成2年にビニール防水工事をしたが、再度、雨漏りが始まった
→ 陸屋根のため、雨漏りの場所が特定できず
そして、それぞれの修繕内容は下記の通りです。
○ A建物 カラートタンで屋根を覆い被せた工事
○ B建物 陸屋根の上に鉄骨を組み、アルミトタンで屋根を葺く工事※
○ C建物 陸屋根の上に鉄骨を組み、アルミトタンで屋根を葺く工事※
※ 屋根裏の空間は物置などの用途には使えない
この前提条件の下、国税不服審判所は下記と判断しました。
○ A建物 1,450万円・・・資本的支出
○ B建物 1,100万円・・・修繕費
○ C建物 2,170万円・・・修繕費
なぜ、この判断が分かれたかというと、それは下記理由によるものです。
裁決文(一部修正)を記載します。
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○ A建物
その亀裂に対して個別に修理ができたにもかかわらず、その屋根の上にカラートタンで屋根全体を覆い被せた屋根カバー工法により工事を行ったものであり、耐用年数の到来が近い屋根を新たにカラートタンで覆う工事は、屋根の耐用年数を延長する工事と認められ、単に雨漏りする箇所のみを修繕する応急的な修復工事、すなわち、単にその資産の通常の効用を維持させるための補修とは認められない。
また、屋根カバー工法による工事は、工事全体で新たな屋根を完成させるものであることから、全体を一工事とみるのが相当であり、これに要する工事費用もその支出の内容を個々に検討する必要は認められない。
したがって、A建物に係る本件工事費用は、全額が本社倉庫自体の使用可能期間を延長させるとともにその価額を増加させるものであり、通常の管理又は修理の範囲を超える支出であることから、法人税法施行令第132条に規定する資本的支出に該当することとなる。
○ B建物、C建物
各建物の屋根がそれぞれ陸屋根造りであり、陸屋根の特定できない部分からの雨漏りのため、陸屋根の上に鉄骨を組みアルミトタン又はカラー鉄板の屋根で覆った折板屋根工事による防水工事である。
一般的に鉄骨・鉄筋コンクリート造の陸屋根式建物は、雨漏りがいったん発生すると雨漏りの経路が分かりにくく完全に修理することは困難だといわれており、B建物、C建物に係る工事は応急的に行なわれたものであり、この工法が雨漏りを防ぐ一番安価な方法であったことが認められ、さらに、過去何度となく補修工事を行っていたにもかかわらず雨漏りが続いていたこと等を考慮すると、本件工事を行わない場合には漏水による建物各部分への影響が不可避であり、結果的に当初予測した建物使用可能期間を短縮させることになるとともに、本件工事によって新たに生じた屋根裏の空間には利用価値が認められないことから、請求人が施工した陸屋根全体を覆う防水工事は、建物の維持管理のための措置であったと認められる。
したがって、B建物、C建物に係る本件工事費用は、通常の管理若しくは修理をするものとした場合に予測された使用可能期間を延長させるもの、又はその支出の時における建物の取得時の価額を増加させるものとは認められないことから、その全額を修繕費とするのが相当である。
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皆さんはこの裁決をどう思われますか?
金額的にも多額であり、新たな物の設置もある状況から判断すると、
資産計上と判断してしまうケースもあるかもしれません。
しかし、
○ 金額が多額であれば、資産計上
○ 新たな物が加わっていれば、資産計上
とは法令、通達のどこにも書いてないのです。
正直なところ、資本的支出なのか、修繕費なのかは微妙な場合もあり、
判断に迷うこともあります。
ただ、大変であっても個別的な修繕が可能かどうか?、
逆に、多額であっても応急的で最も安価な修繕方法かどうか?
ということが判断の分岐点になったことは間違いありません。
金額が大きな修繕費は保守的に判断しがちなケースもあるかもしれませんが、そうではないのです。
この裁決は微妙な分岐点を指した非常に興味深い裁決なので、
是非、覚えておいてくださいね。
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2012年11月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。