贈与者が負担した贈与税は債務控除の対象?
さて、今回は「贈与者が負担した贈与税は債務控除の対象?」です。
相続対策を考え、贈与をすることがありますが、
受贈者が負担すべき贈与税も贈与者が負担する場合があります。
今回の事例は東京高裁(平成4年2月6日)の判決で、
前提条件は下記となります。
○ 昭和56年6月~12月:母から子AB、孫CDに不動産の贈与、
従業員に同族株式(母が社長)の贈与
○ 昭和57年1月:母が他界
○ 昭和57年3月:贈与税を母の口座から納付
→ 贈与税額は約1,400万円
○ 昭和57年7月:贈与税は母が負担する前提であったとして、
母の相続税の計算上、贈与税相当額を債務控除して申告
○ 税務調査で債務控除が否認された
概要はこうなりますが、背景をもう少し詳しく書くとこうなります。
○ 母は自分の死期が近いため、相続争いが起きないように、
不動産を子ABと孫CDに、経営する会社の株式を従業員らに贈与
○ 子は浪費癖が激しく、会社の経営には関与していなかった
○ 母は子ABを信用していなかった
○ 受贈者のうちCDは未成年であり、贈与税を支払う資力なし
○ 顧問税理士とも相談し、母が贈与税を負担しても問題ないことを確認
○ 母は生前に自分が贈与税を支払う旨を親族や従業員である受贈者に
意思表明していた
○ 確定日付のある贈与証書を作成したが、
贈与税を負担する旨は記載されていなかった
このような状況です。
具体的な裁判所の判断の前に関連する法令などを確認しましょう。
民法550条(書面によらない贈与の撤回)
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。
ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
相続税法14条
前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、
確実と認められるものに限る。
相続税基本通達14-1(確実な債務)
債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを
必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と
認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる
範囲の金額だけを控除するものとする。
この状況の中、静岡地裁では納税者敗訴となったのですが、
東京高裁では納税者勝訴(確定)となりました。
その根拠は下記の通りです。
○ 母が信用のおけない子ABや贈与税を支払う資力のない孫CDのために、
贈与税を負担しようとしたことは十分に考えられること
○ 関係者の証言も十分に信用できるものであり、母の贈与税を負担する旨
の意思表示に関し、受贈者が異議を述べなかったことは合意が成立した
ことと同様
○ 確定日付入りの贈与証書があるが、贈与税の負担に関することが
記載されてないとしても不自然ではない
○ 母が贈与税を負担することは合意があったと判断できるので、
債務控除は問題ない
いかがでしょうか?
確かに、基本通達14-1には「書面の証拠は不要」と書いてあります。
しかし、実際の税務調査を考えた場合、どういう書面が残っているかは
税目を問わず、重要なことです。
特に、今回は贈与税負担のことを生前に顧問税理士に相談していた経緯も
ある訳です。
また、死期がそれほど遠くない未来にあることも分かっていたのです。
そうであれば、受贈者が負担すべき贈与税を贈与者が負担する旨も
書面にしておくべきだったでしょう。
もし、その書面があれば、更正されることもなかったと推察されます。
ちなみに、地裁では納税者敗訴となっている訳ですから、
危なかったとも言えます。
確かに、民法、相続税法基本通達では贈与に関して「書面であること」を
絶対条件としていません。
しかし、実際の現場を考えれば、どんな些細なことも書面で
残しておくことは非常に重要なのです(税目問わず)。
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2013年3月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。