退職した社員を被保険者とする生命保険の損金性(その1)
※2018年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「退職した社員を被保険者とする生命保険の損金性」ですが、
3回に渡り、3つの裁決をご紹介します。
今回は、平成29年12月12日の裁決をご紹介します。
退職した社員を被保険者とする生命保険を解約せず、
保険料を支払い続け、これが損金(必要経費)になっていることがあります。
この場合、これは認められるのでしょうか?
問題になったのはがん保険、生活障害保障型定期保険です。
この事例において、国税は
〇業務との関連性がないものは、損金の額に算入することができない。
〇退職者は、請求人の業務を行うことはなく、退職者に関する費用は、
事業活動と直接の関連性を有する業務遂行上必要な費用であるとはいえず、
業務との関連性が認められない
と主張しました。
ちなみに、この事例では「がん治療費補助・見舞金制度規定」に
下記の記載がありました。
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ただし退職した者であっても当社の理由により当該保険の解約手続きが
行われていない場合は、当該退職者においても本制度の加入資格を
喪失しないものとする。
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また、下記状況も整っていました。
〇新入社員に対して交付する「入社された方へ」と題する書面には、
請求人は、福利厚生の一環として、請求人の経費でがん保険を
完備している旨が、請求人が退職者に対して交付する「退職された方へ」と
題する書面には、請求人を退職してから5年間を経過した日の属する年の
9月30日までがん保険が適用される旨が記載されていました。
〇生活保障型保険契約の契約に先立ち、被保険者となる各従業員の
全員から「一括申込用保険者申込書」に押印してもらう際に、
本件生活保障型保険契約の内容等について周知をしていました。
〇退職した従業員に対しては、「退職された方へ」と題する書面は
「がん保険」のみの記載となっているが、請求人が契約している民間保険は
全て、退職後5年間は給付金の支払が受けられることを説明していました。
この結果、国税不服審判所は下記と判断したのです。
〇本件各がん保険契約及び本件生活保障型保険契約に係る
本件退職者支払保険料は、請求人の業務との関連性を有し、
業務の遂行上必要と認められることから、本件各事業年度の損金の額に
算入することができる。
〇原処分庁の主張について
本件退職者支払保険料について、業務との関連性が認められることは、
上記事実関係のとおりであり、また、退職者を被保険者とした
福利厚生目的の保険契約に係る支払保険料を一定の条件の下に
法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入して差し支えない旨の
取扱いが個別通達(昭和49年4月20日直審3-59ほか
「団体定期保険の被保険者に退職者を含める場合の保険料の
税務上の取扱いについて」及び昭和60年2月28日直審3-30ほか
「定年退職者医療保険制度に基づき負担する保険料の課税上の取扱い
について」)で明らかにされていることからしても、
従業員が退職したことのみをもって、退職者を被保険者とする
保険契約に係る支払保険料が業務との関連性が認められない費用であると
するのは相当ではなく、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
いかがでしょうか?
一般的には、退職社員を被保険者とする生命保険契約は解約することが
多いのでしょうが、このような前提があれば、そのまま継続しても
損金性は失われないのです。
次回の事例も納税者の主張が認められた事例をご紹介しますので、
お見逃しのないようにお願いします。
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