退職所得とは何か?
こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「退職所得とは何か?」です。
今回の事例は学校法人という特殊事情はあるものの、「退職所得とは何か?」
という本質が書かれているので、取り上げてみたいと思います。
まずは、この事例の前提条件です。
○原告(学校法人)は甲(今回の対象者)の父(乙)が昭和10年に開校した
学校法人で、F大学、G高等学校、H中学校、I幼稚園、J専門学校を運営
している。
○甲は大学卒業後の昭和25年4月、G高校の数学教諭として原告に採用
○昭和26年3月、原告の理事に就任し、昭和29年7月、父(乙)の後任と
して原告の理事長に就任し、その後、甲の母(丙)が理事長を務めていた
昭和32年3月から昭和36年11月までの間を除き、【現在に至るまで】
原告の理事長の職にある。
○昭和30年3月、G高校の校長に就任し、平成12年4月にH中学の校長に
も就任(新設)した。
○昭和30年4月から昭和36年3月までの間、昭和58年11月から昭和
59年4月までの間、I幼稚園の園長を務め、昭和62年4月に同園長に
就任し、現在に至るまでその職にある。
○平成12年4月1日施行の学園長規程により、同日に原告の初代学園長に
就任し、現在に至るまでその地位にある。
○平成14年4月1日、F大学の学長の職に就き、現在に至るまで
その職にある。
○平成14年3月31日まで、原告理事長、原告学園長、G高校校長と
H中学校長の校長、幼稚園園長の地位にあった
○平成14年4月1日から現在に至るまで、原告理事長、原告学園長、
幼稚園園長、学長の地位にある。
○平成14年3月31日、定年により、G高校校長とH中学校長を退き、
退職金4,802万円の支払いを受けた
この状況の中、税務署長はこれが退職所得ではなく、給与所得であるとして、
納税告知及び不納付加算税賦課決定をし、大阪地裁で争われることになった
のです。
では、判決文に行く前に該当条文等をみてみましょう。
○所得税法第30条(退職所得)第1項
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及び
これらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に
係る所得をいう。
○所得税基本通達30-2(引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当
等とするもの)
引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる
給与のうち、次に掲げるものでその給与が支払われた後に支払われる退職手当
等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下
に支払われるものは、30-1にかかわらず、退職手当等とする。
(1) 新たに退職給与規程を制定し、又は中小企業退職金共済制度若しくは
確定拠出年金制度への移行等相当の理由により従来の退職給与規程を改正
した場合において、使用人に対し当該制定又は改正前の勤続期間に係る
退職手当等として支払われる給与
(注)
1上記の給与は、合理的な理由による退職金制度の実質的改変により精算の
必要から支払われるものに限られるのであって、例えば、使用人の選択によって支払われるものは、これに当たらないことに留意する。
2使用者が上記の給与を未払金等として計上した場合には、当該給与は現に
支払われる時の退職手当等とする。この場合において、当該給与が2回以上
にわたって分割して支払われるときは、令第77条((退職所得の収入の時期))
の規定の適用があることに留意する。
(2)使用人から役員になった者に対しその使用人であった勤続期間に係る
退職手当等として支払われる給与(退職給与規程の制定又は改正をして、
使用人から役員になった者に対しその使用人であった期間に係る退職手当等を
支払うこととした場合において、その制定又は改正の時に既に役員になっている
者の全員に対し当該退職手当等として支払われる給与で、その者が役員になった
時までの期間の退職手当等として相当なものを含む。)
(3)役員の分掌変更等により、例えば、常勤役員が非常勤役員(常時勤務して
いない者であっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその
法人の経営上主要な地位を占めていると認められるものを除く。)になった
こと、分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上減少)したこと
などで、その職務の内容又はその地位が激変した者に対し、当該分掌変更等
の前における役員であった勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与
(4)いわゆる定年に達した後引き続き勤務する使用人に対し、その定年に
達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与
(5)労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合において、その延長
前の定年(以下この(5)において「旧定年」という。)に達した使用人に対し
旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与で、
その支払をすることにつき相当の理由があると認められるもの
(6)法人が解散した場合において引き続き役員又は使用人として清算事務に
従事する者に対し、その解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払わ
れる給与
この前提の中、大阪地裁は最高裁(昭和58年9月9日、昭和58年12月
6日)を引用し、下記と判示しました。
○ある金員が所得税法第30条第1項にいう「退職手当、一時恩給その他の
退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、
①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること
②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の
性質を有すること
③一時金として支払われること
との要件を備えることが必要
○同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、それが、
形式的には上記各要件のすべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの
要件の要求するところに適合し、課税上、上記「退職により一時に受ける給与」
と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきで
ある。
○同一の学校法人の設置する教育機関であつても、高等学校(及び中学校)と
大学とでは、その教育機関としての目的、性格が基本的に異なるものであり、
その差異に応じて学校教育法その他の関係法令によりその組織及び運営の両面
にわたって種々の規制がされている
○同一の学校法人との間に雇用等の法律関係にある者であっても、少なくとも
教員については、その設置する高等学校(及び中学校)及び大学相互間の異動
は一般的に考え難く、原告においても、このような観点から、G高校及び
F大学についてそれぞれ別個の就業規則を定めるのみならず、その退職金
規程もそれぞれ別個とした上勤続年数に関する通算規定等を設けていないもの
と解される。
○私立学校法及び学校教育法の規定によれば、学校法人における理事及び
理事長の権限は、当該学校法人の組織及び運営の基本的事項に関するものに
とどまり、教育に関してはその設置する各学校の校長ないし学長にその多くが
ゆだねられている
○高等学校(及び中学校)の校長と大学の学長とでは、その教育機関としての
目的及び性格の相違から、所属職員に対する指揮監督権の内容等において差が
設けられているのである。
○甲の平成14年3月31日までの原告における職務のうち主要なものは、
常時勤務を要するG高校とH中学の校長としての職務であったということが
でき、その余の理事長としての職務及び園長としての職務は、いずれも常時
勤務を要しないものである上、丁若しくは戊又は副園長にその職務の一部
又は大部分をゆだねていたというのであるから、これらの職務は、甲の原告に
おける職務のうちのごく一部にすぎなかったというべきである
○原告代表者尋問の結果によれば、甲自身も、本件校長としての職務に要する
時間、労力等と理事長としての職務に要する時間、労力等との比率は9対1
程度であるといった感覚を有していたことが認められる。
○他方、平成14年4月1日以降については、本件学長としての職務が主要な
ものであったということができるものの、甲が本件大学(学長室)に出勤する
のは1週間に2、3回の頻度であって、理事長としての職務、園長としての
職務と同様、常時勤務を要するものではなく、さらにその多くを副学長である
丁や学長補佐である戊にゆだねていたというのである。
○G高校とH中学の校長を退職した前後において、甲の理事長、園長としての
勤務関係が継続していることなどからして、「退職手当、一時恩給その他の
退職により一時に受ける給与」該当性の前記①の要件を満たすとまでいうのは
困難であるとしても、実質的にみて、上記要件の要求するところに適合し、
少なくとも、課税上、これと同一に取り扱うのが相当というべきである。
結果として、重要なのは「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受け
る給与」ではなかったとしても「これらの性質を有する給与」であれば、退職
所得に該当するということです。
なお、TAINSでは裁決と地裁のリンクはされていないのですが、検索し、
内容を検証したところ、平成17年9月22日裁決(F0-2-289)が
同事案と思われます(当然、裁決では納税者の主張は認められていません)。
いかがでしょうか?
退職所得が所得税法上でどのように定義され、また、その定義が裁判では
どのように解釈されているかは普段の業務ではあまりチェックしない点かも
しれません。
ただし、「退職所得とは何か?」という本質を考える場合に参考になる
判決ですので、ここでご紹介しました。
学校法人という特殊事情はあるかもしれませんが、ご参考になさって下さい。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
※2014年3月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。