退職金が過大だと調査前にわかっているのか?
※2015年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社InspireConsultingの久保憂希也です。
「功績倍率3倍を超えない」で、
調査における過大退職金指摘の危険性を書きました。
さて、ここで疑問に思われた方も多いのではないでしょうか?
「調査官は、税務調査に来る前の段階で、同業他社と比べて
過大退職金になることがわかっているのではないか?」
確かに決算書において、退職金の金額自体は
明示されているため、「過大退職金になるかも!?」
として、調査官は調査選定したのかもしれません。
しかし、税務調査の前段階で、調査官は明確に
過大退職金である(ない)ことはわかり得ません。
その3つの理由を挙げてみましょう。
①在任年数などの基礎となる数字がわからない
役員としての在任年数は調査してみなければわからない部分です。
もちろん登記簿を事前に取ることはできますが、
それは調査の過程ですればいいことですし、
登記簿だけで絶対的に在任年数を判断することもできません。
また、退職金の判断となる最終月額報酬は事前にわかっても、
それが採用されているとは限りません。退職金の算定に
「平均」月額報酬が採用されているかもしれないのです。
結局のところ、調査に入ってみて、退職金の
実際の算定方法を検証してみなければ、
退職金が過大かどうかは判別できないのです。
②売上等の金額は正しいのかわからない
同業他社を抽出する基準として、「同規模」である
ことが求められていますが、これは一般的に
「倍半基準」で抽出されることがほとんどです。
「倍半」とは、売上金額が半分~2倍以内の法人を指しますが、
調査に入ってみなければ、申告された売上金額が
本当に正しい金額かどうかはわかりません。
ですから、調査しなければ、同規模法人の
抽出がそもそもできないのです。
③業種の確定ができない
税務署では、各法人の業種区分を事前にしていますが、
これも調査に入ってみないとわからないことが多いです。
単純に「小売業」といっても、販売している商品や
販売の形態によって、細分化する必要があります
(利益率等は業種によって相当な乖離差があります)。
また、複数の事業を営んでいる場合は、さらに
「同業」の抽出が難しくなるため、事前での
抽出・算定が実質的に不可能となっているわけです。
以上から、調査官は退職金が過大であるという確信を持って
調査に来ているわけではないことがわかります。
調査官が調査初日など、まだ調べていないことが明白な時期に
「退職金が同業他社と比べて過大ですね」と指摘してきた場合、
「では、同業他社の退職金の平均はいくらなのですか?」
と質問することが大事になります。
同業他社の抽出もしていないのに、過大と言っているなら
「否認のためのカマカケ」であって、相当な問題です。
これが本当にカマカケなのであれば、
それだけで調査手法の是非を問うべきでしょう。
また、平均金額を調査官が言った場合、
「それはどのような抽出基準なのか?」
をきちんと確認することが必要ということです。
「同業他社」といっても、本当に規模が近しいのか、
業種は本当に同じなのか、もっといえば、
同業他社の地域は違わないのか、絶対に確認すべきです。
同業他社の抽出は、調査官にとってそれほど簡単なことでは
ないため、調査官の言い分を安易に信じて
過大部分を修正することないよう十分に注意してください。
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