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2016.03.02

遺産分割の錯誤無効と贈与の関係

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「遺産分割の錯誤無効と贈与の関係」ですが、

平成18年11月28日の裁決(TAINSコードF0-3-148)を

取り上げます。

この事例は

○ 当初の遺産分割における同族会社の株式評価につき、配当還元方式を採用

○ 当初の遺産分割による取得株式数では配当還元方式ではなく、類似業種

  比準方式を採用すべきことが判明

○ 配当還元方式を採用できる取得株式数を前提に、遺産分割をやり直し、

  更正の請求、修正申告をした

○ 贈与税の決定処分があった

という事例で、争点は「遺産分割の錯誤無効が成立しているか否か」です。

この事案の詳細な認定事実は下記となっています。

○ 当初の遺産分割協議書に、本件相続人らが取得する財産として、

  「1.相続人■■■■■が取得する財産(4)同族会社の株式・配当還元

  方式 ■■■■■■■■■■■■」等と表示されていること

○ 関与税理士は8ないし9回、■■■■■及び■■■■■■■■■■に

  おいて、本件株式の評価に配当還元方式が適用できるかどうかを相談し、
 
  配当還元方式を適用することができる旨の回答を得たということ

→ 「■■■■■及び■■■■■■■■■■」は下記で「職員」と付されて

  いることから、課税庁に相談したものと推認されます

○ 関与税理士が■■■■■■■■■■の職員に本件株式に係る資料及び
 
  計算書類の一切を持参の上、本件株式の評価に配当還元方式が適用

  できるかどうかを相談し、持参した資料等を1週間程度預けておいた

  ところ、当該職員から本件株式の評価について配当還元方式を適用して

  差し支えないとの回答があったこと

○ 相続人は当初の遺産分割協議前に関与税理士から配当還元方式が採用

  できる旨の報告を受けたこと

○ 関与税理士は、相続税原処分調査担当職員及び相続税異議調査担当職員

  に対し、株式の評価に関して勉強し検討したが、知識不足を補うため

  上記の相談をした旨申述していること

この状況を踏まえて、国税不服審判所は下記と判断しました。

○ 当初の遺産分割協議においては、次のとおり、配当還元方式で本件株式

  を評価することが遺産分割協議の意思決定の重要な要素となっており、

  その評価方式が適用されなければ遺産分割協議が成立し得なかったこと

  は十分に推認できる

○ 配当還元方式を適用することは、当初の遺産分割協議書に表示されている

  ことから、■■■■■が取得する本件株式につき、その評価方式として

  配当還元方式を適用するという動機が法律行為の内容となっていることは

  明らかであり、そうすると当初の遺産分割協議による取得株式数でも

  配当還元方式が適用されるという誤信がなければ、その経緯からみて、

  ■■■■■が取得する本件株式については、当然に配当還元方式が適用

  される株数を遺産分割協議による取得数としていたと推認される

○ 当初の遺産分割協議の合意には動機の錯誤があり、その動機が当初の

  遺産分割協議書に表示されて意思表示(法律行為)の内容となっていて、

  もし錯誤がなかったならば本件相続人らはその意思表示をしなかった

  であろうと認められることからすると、当初の遺産分割協議の合意には

  要素の錯誤があったと認められる

○ 本件相続人らは、関与税理士に本件株式の評価を依頼し、関与税理士から

  ■■■■■へ相談した結果も本件株式の評価に配当還元方式が適用できる

  とする回答を得た旨の報告を受けていることが認められ、少なくとも

  社会通念上考え得る手段を尽くして本件株式の配当還元方式の適用の可否

  について検討を行っているといえるのであり、本件相続人ら及び関与

  税埋士には評価通達の確認を怠ったという過失があるものの、通常要求

  される注意義務を著しく欠いているとは認められないことから、重大な

  過失があったとまではいえない

○ 当初の遺産分割協議はその要素に錯誤があることから無効である

○ 新たな遺産分割協議に基づき作成された新たな遺産分割協議書のみが

  有効な遺産分割協議書であると認められる

結果、贈与税の決定処分等は「全部取消し」となったのです。

この事例では「少なくとも社会通念上考え得る手段を尽くして本件株式の

配当還元方式の適用の可否について検討を行っている」前提であり、過失は

あるが、重大な過失はない、という前提です。

もちろん、これを「評価の間違いを起因として遺産分割協議をやり直しても

贈与にはならない」とまで解することはできません。

遺産分割協議書に配当還元方式を前提とした表記があったことも大きな要因

の1つでしょう。

遺産分割に際して株式や不動産の評価をする場合、当初の評価額を前提に

考える場合も多いですが、これが異動した場合、「その評価になるならば、

この遺産分割にはしなかった」というケースも想定されます。

この場合、「正しい評価に基づいた遺産分割協議をしたい」となることも

多いでしょうが、それが「錯誤無効」という状況ならば、遺産分割のやり直し

は贈与にならないのです。

なお、最後に本裁決文において、錯誤無効の考え方(法令解釈)について、

記載されている部分があるので、追記します。

○ 法律行為を行うに際して、当該法律行為の動機に錯誤があり、その動機

  が明示的又は黙示的に表示され、法律行為の要素となっている場合には、

  民法第95条により、当該法律行為は無効になると解される。ただし、

  表意者に重大な過失があるときは表意者自らその無効を主張することは

  できない

○ ここでいう法律行為の要素とは、法律行為の内容の重要な部分を意味し、

  何が重要であるかはそれぞれの法律行為の諸事情との関連で判断される

  べきであり、その部分に錯誤がなかったならば表意者はそのような契約

  をしなかったであろうと考えられるだけでなく、通常人を表意者の地位

  においてもおそらく大部分の者がそうした契約はしなかったであろうと

  考えられるほど重要な部分であると解される

○ 以上のように、法律行為の動機に錯誤があった場合、その動機が相手に

  表示され、法律行為の内容の重要な部分となったときは、その動機の

  錯誤も要素の錯誤となり得ると解される

 

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

※2014年6月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

 

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