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2023.07.21

遺留分侵害額請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の適用可否1

※2022年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

今回のテーマは
「遺留分侵害額請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の適用可否1」です。

これまで何度かご紹介しております
「遺留分の法的成立の変更」
に関しての派生論点になります。

令和元年7月1日に施行された改正民法により
税法も連動して規定が新設されています。

改正前民法における遺留分減殺請求は
いわゆる「物権的効果説」を採用していました。

相続財産全体に対する「共有持分」を有しており、
遺留分侵害をしている者が
遺留分相当の財産(例えば、不動産や株式)を
遺留分権利者に引き渡した場合には
あくまで「相続」という枠内で考えることになります。

つまり・・・
遺留分を侵害し、それに対する形で財産が
移転した場合でも、原因はあくまで「相続」となるため
キャピタルゲイン課税されることはありませんでした。

また、遺留分権利者が宅地を取得した場合に
当該宅地に小規模宅地等の特例を適用することは
相続を原因として取得しているため
他の要件を満たせば
小規模宅地等の特例の適用は可能となります。

これに対して
改正後民法における遺留分侵害額請求は
当該請求権は民法1046条1項により
「金銭債権化」されています。

そのため、
遺留分権利者は金銭債権を有しており
遺留分を侵害した者は金銭債務を負うことになります。

そのため、金銭と引き換えに
遺留分相当の財産(例えば、不動産や株式)を
遺留分権利者に引き渡した場合には
「代物弁済」となり含み益があれば
キャピタルゲイン課税として扱われます
(所基通33-1の6)。

ここで・・・
具体例を挙げます。

被相続人:父(母は既に他界)
相続人:長男、長女
財産:自宅及びその敷地、預金
遺言:全財産を長男に相続させる
小規模宅地等の要件:長女のみ満たす
遺留分請求:申告期限後

民法改正前:
申告期限後に長女が遺留分を請求し
長男はその対応として、
自宅及びその敷地を長女へ引渡した場合
長男は更正の請求を行い
長女が当初申告を行うことになります。

長女は申告期限後の当初申告において
取得した自宅及びその敷地に対して
小規模宅地等の特例を適用することが可能です。

なぜならば、「相続」を原因として
自宅及びその敷地を取得しているためです。

また、長男は「相続」を原因として
不動産(自宅及びその敷地)を引き渡しているため
キャピタルゲイン課税は生じません。

民法改正後:
申告期限後に長女が遺留分を請求し
長男はその対応として、
自宅及びその敷地を長女へ引渡した場合
長男は更正の請求を行い
長女が当初申告を行うことになります。

ここまでは改正前後で変わりません。

異なるのは以下の2つです。

まず、長女は申告期限後の当初申告において
取得した自宅及びその敷地に対して
小規模宅地等の特例を適用することができません。

なぜならば、「相続」を原因として
自宅及びその敷地を取得していないためです。

次に、長男は代物弁済として
不動産(自宅及びその敷地)を引き渡しているため
キャピタルゲイン課税は生じることになります。

遺留分の法的性質が変更されたことにより
課税実務でも様々な問題が生じますので
留意が必要です。

次回も引き続き、
別ケースで同様の論点を検討させていただきます。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

木下勇人

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