関連法人の役員の妻は青色事業専従者になり得るか?
※2015年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「関連法人の役員の妻は青色事業専従者になり得るか?」ですが、
前回同様、平成26年2月4日の裁決を取り上げます。
前回のメルマガでは耐用年数に関する争点を取り上げましたが、実は本裁決
ではもう1つの争点があり、それが「関連法人の役員の妻は青色事業専従者に
なり得るか?」です。
前回と同じ裁決ですので、請求人は税理士自身です。
まずは、前提条件です。
○ 請求人は税理士(個人事業主)
○ 請求人の妻は関連法人3社の役員
→ A社の取締役(不動産の賃貸借・管理など)
→ B社の代表取締役(経営コンサルタント業務、都市開発の設計など)
→ C社の代表取締役(建築コンサルタント業務、不動産の売買など)
○ 請求人は妻を青色事業専従者とし、給与を支払っていた
→ 平成21年分は6,750,000円
→ 平成22年分は5,720,000円
→ 平成23年分は5,300,000円
○ 原処分庁は「妻は当該法人の業務に従事しており、請求人の営む事業に
専ら従事するとは認められず、青色事業専従者に該当しないことから当該
給与の額は必要経費に算入できない」として更正処分を行った
争点は所得税法施行令165条2項2号の「他に職業を有する者」に当たるか
どうかという点ですが、これにつき、請求人は下記と主張しました。
○ 請求人の妻が従事している本件各関連法人及び本件事業の業務内容は、
別表3から別表6までに記載したとおりであり、通常時の本件各関連法人
及び本件事業の業務の1日当たりの平均従事時間は、A社は45分、
B社及びC社は各30分以内であり、本件事業は7ないし8時間である
から、本件各関連法人の業務の従事時間は短いといえる。
○ 請求人の妻が本件事業において従事している業務内容は本件事業の重要
部分であるが、本件各関連法人において従事している業務内容はいずれも
軽微なものである。
○ 請求人の妻の原処分庁所属の調査担当職員に対する申述内容は、大雑把で、
各業務の従事時間や内容に誤差があるから、同申述によって各業務の従事
時間や内容を認定すべきではない。
○ 請求人の妻は、所得税法施行令第165条第2項第2号括弧書に規定する
「その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが
妨げられないと認められる者」に当たり、同号に規定する「他に職業を
有する者」には当たらない。
しかし、国税不服審判所はこれを認めず、下記と判断したのでした。
○ 青色事業専従者とは、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を
受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族で、その居住者の
営む事業に専ら従事するものをいう(所得税法第57条第1項)ところ、
当該事業に専ら従事するかどうかの判定は、所得税法施行令第165条
第1項により、当該事業に専ら従事する期間(以下「事業専従期間」と
いう。)がその年を通じて6月を超えるかどうかによる旨規定され、
さらに、同条第2項第2号により、当該事業に従事すること以外に他の
職業を有する者については、当該他の職業に従事する期間は、事業専従
期間に含まれない旨規定されている。
○ もっとも、同号括弧書において、他に職業を有する者でも「その職業に
従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられない
と認められる者」は、同号に規定する「他に職業を有する者」に当たらず、
その他に職業を有する期間も事業専従期間に含めることができる旨規定
されている。
○ 本件において、原処分庁は、請求人の妻が同号に規定する「他に職業を
有する者」に当たるため、事業専従期間がその年を通じて6月を超えない
から、請求人の妻が青色事業専従者に該当しないと主張し、他方、請求人
は、請求人の妻が同号括弧書に規定する「その職業に従事する時間が短い
者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者」に
当たり、同号に規定する「他に職業を有する者」には当たらないため、
事業専従期間はその年を通じて6月を超えるから、請求人の妻は青色事業
専従者に該当すると主張する。
○ そこで、以下、請求人の妻が同号括弧書に規定する「その職業に従事する
時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められ
る者」に当たるか否かを審理し、もって請求人の妻が青色事業専従者に該当
するか否かを判断する。
○ 請求人の妻が「その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら
従事することが妨げられないと認められる者」に当たるか否か
・ 請求人の妻が本件各関連法人の業務に従事している場所や時間帯は、本件
事業の業務遂行の場所及び時間帯と一致しており、また、請求人の妻自身
が、本件事業の業務と本件各関連法人の業務の従事時間を区分することは
できず、従事する時間帯も明確に区分できないことを原処分庁及び
当審判所に対して申述及び答述していることからすると、請求人の妻は、
本件事業の業務と本件各関連法人の業務を時間的空間的に区別すること
なく、同時並行で随時行っていたものと認められる。
・ 請求人の妻は、本件各関連法人の業務について、本件各関連法人の
各従業員に指示を行い、また、各従業員から報告を受けるなど、いずれも
本件各関連法人の取締役ないし代表取締役として、本件各関連法人の業務
を指揮監督していたものと認められる。
・ そもそも会社の取締役は、一般の従業員と異なり、その事務処理に関し、
会社法第355条の忠実義務、同法第356条以下の競業避止義務等に
加えて同法第330条及び民法第644条の善管注意義務を負って会社の
業務全般を指揮、執行する者であり、その立場上、常に当該会社の業務に
注意を払う必要がある。
・ 特に代表取締役は、対外的に会社を代表し、対内的に業務全般の執行を
担当する職務権限を有する機関であり、その代表権の範囲は会社の営業に
関する一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶ包括的なものであり、その
職責は特に重大である。
・ そうすると、全くの名目取締役であればともかく、名実ともに取締役と
して職務を遂行し、その対価を得ている者は、一般従業員のように既定の
業務のみを遂行すれば足りるというものではなく、会社に対して、常時、
取締役としての責任を負って、会社のあらゆる業務について指揮、監督
し得る状態にある必要があるところ、請求人の妻は、現に、本件事業の
業務と並行して本件各関連法人の業務を遂行し、特に午後には本件各関連
法人の事務所を兼ねる請求人事務所に常駐して、本件各関連法人の取締役
としての職務を常に遂行し得る状態にあったと認められる。
・ そして、請求人の妻が、常に本件各関連法人の取締役として業務を遂行し
得る状態にある以上、本件各関連法人の具体的な業務をしていない時間が
あったとしても、それによって、本件各関連法人の業務に従事していた
請求人の妻が「その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら
従事することが妨げられないと認められる者」に当たると認めることは
できない。
もちろん、本件の考え方は税理士業に限ったことではなく、不動産所得を含む
他の個人事業にも同様の考え方が適用されるべきとなります。
個人の節税を考えて同族法人を設立し、その取締役に親族が就任している
ケースは多いですが、青色事業専従者には該当しないケースもあるので、
そこは十分な注意を払う必要があるのです。
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