雑収入の計上漏れと重加算税
※2014年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
さて、今回は「雑収入の計上漏れと重加算税」ですが、
平成26年2月1日の裁決を取り上げます。
本件における争点はいくつかあるのですが、ここでは「雑収入の計上漏れと
重加算税」について取り上げます。
本件は
○ 従業員からの預り金につき、雑収入計上すべきか?
○ 雑収入計上すべきならば、それは重加算税なのか?
が争点となった事案です。
では、前提条件です。
○ 代表取締役Gが経営する主に冷凍食料品の販売を業とする法人
○ J課長は請求人の設立時以来の使用人
○ J課長がG代表に提出した平成7年12月12日付の「決意表明」と
題する書面には、J課長が「目標を成し遂げる強い意志を約束」し、
「その為には会社に私個人の財産200万円を預ける」との記載あり
○ 当該決意表明と同日に請求人へ預け金として200万円を交付した
(以下、この金員を「本件預け金」という。)旨陳述している
○ 請求人とJ課長が取り交わした書面
・ 平成9年1月30日付
販売目標に達することができず、ペナルティとして、本件預け金より
50万円を支払う旨の記載
・ 平成9年2月3日付
「第10期、先物販売予約55,000万円の注文を取る」として、
「販売予約が達成できなかった場合、会社に預けてある150万円は
没収して頂いて結構です。」と記載されている。
・ 平成17年9月27日付
会社への貸付金150万円のうち、30万円を顧客交際費のため、
使用し、返金された旨の記載
・ 平成19年10月31日付
J課長の商品の損失責任及び稟議違反につき、120万円を貸付金
120万円のうちから支払う旨の記載
○ 平成17年10月期において、30万円の雑収入計上もれと否認
○ 平成19年10月期において、120万円の雑収入計上もれと否認
○ いずれの計上もれについても重加算税が課された
この前提の中、国税不服審判所は下記と判断しました。
○ 平成17年10月期における30万円の雑収入計上もれについて
・ 平成17年9月27日付の書面では「30万円は顧客交際費のため、
返金」と記載(されているが)
・ G代表の陳述書「30万円をJ課長に返金した」
・ J課長の陳述書「30万円が返金された」
・ G代表の答述「30万円はJ課長に返金した」
・ 上記3つの内容は一致
・ 質問てん末書では、J課長は30万円の現金の返金を受けたものでは
ないとしているが、仮にこれが事実であれば、平成17年9月27日付
の記載は、平成9年1月30日付、平成19年10月31日付の各記載
と同様となるのが自然であるが、平成17年9月27日付の記載は、
平成9年1月30日付、平成19年10月31日付とは異なっている
→ 平成17年9月27日付の記載:「返金頂きました」との文言が使用
→ 平成9年1月30日付、平成19年10月31日付の記載:「お支払い
致します」との文言が使用
・ 質問てん末書以外には、請求人がJ課長に対し本件預け金のうち30
万円を返金しないこととしたか否かについて、請求人が現実に本件
預け金から利得を享受したと認定できるような証拠は見受けられない
・ 30万円は雑収入ではない(当然、重加算税も取消し)
○ 平成19年10月期における120万円の雑収入計上もれについて
・ G代表の陳述書「損害補填のため、J課長から120万円を没収」
・ J課長の陳述書「損害が発生した場合は損害を補填することを了解」
・ J課長の陳述書「120万円は損害補填」
・ 質問てん末書「J課長が請求人に損害を与えたため、120万円は没収」
・ 上記4つは一致
・ J課長が具体的に、いつ、どのような行為でもって、どの程度の金額の
損害を請求人に与えたかは不明だが、これらの事実関係を踏まえると、
J課長は、自己の成績不振、稟議違反を理由に、平成19年10月期に
おいて、本件預け金のうち120万円の返還請求権を放棄したか、
少なくとも返還請求権の行使をしない旨の意思表示を請求人に対し、
行ったものと推認される。
・ この意思表示により、平成19年10月期に請求人は、法律上J課長
からの預り金である120万円の返還債務の免除を受けたか、あるいは
120万円の支払が不要となった状態となり、その段階で収益の実現が
あったと認められる
・ 120万円は雑収入の計上もれ
○ 重加算税について
・ 原処分庁の主張
平成17年9月27日に30万円、平成19年10月31日に120
万円を返還しないこととした事実について、G代表自らがJ課長との
書面を社長室で管理していたにもかかわらず、いずれも帳簿に記載せず、
雑収入として法人税法上の益金の額に算入すべきところ、法人税の確定
申告に反映させていない。
これらの行為は、積極的に事実と反する経理を行い、租税を免れようと
する意思があったことが認められることから、重加算税賦課の要件を
満たす。
また、この書面は、関与税理士に提示されることはなく、G代表の机の
引出しにおいて管理されていたこと(認定事実とも一致)からも明らか
なように、請求人の行為は容易に判明するものではなく、単なる過少
申告に該当するものではない。
・ 審判所の判断
請求人は、そもそも本件預け金を返還しないこととなった結果、収益が
実現したとの認識を有していなかったと認められることに加え、請求人
が、故意に当該事実を帳簿書類に記録しなかったとか、雑収入発生の
事実を隠ぺいしたとかの証拠も見受けられないことからすると、平成
19年10月期において、請求人には、「隠ぺい又は仮装」の行為が
あったとは認められない。
この点、原処分庁は、請求人が雑収入発生の事実を故意に隠ぺいした根拠
として、この書面が関与税理士に提示されることはなくG代表の机の
引出しにおいて管理されていた点をあげる。
しかしながら、そもそも請求人には収益が実現したとの認識がなかった
と認められることから、単にG代表が本件覚書を机の引出しで管理して
いたとの事実のみにより、雑収入発生の事実を隠ぺいしたものである
とは認定できず、したがって、原処分庁の主張は採用できない。
いかがでしょうか?
益金計上すべき認識が無ければ、その根拠となる書面が「机の中にあった
としても」当然の話であり、そこに「隠ぺい」、「仮装」という行為が
存在するはずもありません。
しかし、根拠となる書面が机の中等にあれば、これを根拠に重加算税と
指摘されることも十分にあり得ることを本事案は表しています。
しかし、あくまでも重加算税の根拠は「隠ぺい」、「仮装」であり、
これらの行為が無ければ、課されるべきものではないのです。
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