非常勤役員の適正役員報酬とは?(その1)
※2017年2月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
回は「非常勤役員の適正役員報酬とは?(その1)」ですが、
平成9年9月29日の裁決を取り上げます。
なお、今回から3回シリーズで、このテーマを取り上げます。
中小企業の場合、親族が非常勤役員として役員報酬をもらっていることは
よくあります。
中には非常勤であるにも関わらず、高額な役員報酬を支払っている事例も
あるでしょう。
では、親族が非常勤役員である場合、どの程度であれば、
適正な役員報酬として否認されないのか?
これを3回のメルマガを通じて、考えていきますが、
3回目の最後で全体の総括をやります。
まず、本裁決の前提条件です。
〇 請求人はパチンコホールを営む同族会社
〇 親族である役員に対して支払った役員報酬は下記
・ 平成4年7月期、平成5年7月期、平成6年7月期の順
・ A氏:714万円、934万円、954万円
・ B氏:326.4万円、656.4万円、686.4万円
・ C氏:408万円、738万円、768万円
この前提の下、請求人は下記と主張しました。
〇 請求人の従業員のうち、本件各事業年度の給与支給額の多い上位4名の
給与支給額は次表のとおりである。
・ 平成4年7月期、平成5年7月期、平成6年7月期の順
・ a氏:7,562,194円、7,867,454円、7,872,500円
・ b氏:6,493,809円、7,191,097円、7,236,915円
・ c氏:5,777,991円、5,940,208円、5,930,944円
・ d氏:5,227,604円、5,370,869円、5,411,365円
〇 本件役員報酬は、これらと比較した場合に不相当に高額ではない。
〇 Aは請求人の設立当時から銀行からの借入れの際、
担保として個人資産を提供し、資金の運営に深く関与している。
〇 Bは従業員との接触が多いことから、諸般の動静及び状況について
提言をしている。
〇 A及びBには、請求人の創業当時から苦労をかけていることから、
請求人が収益を上げられるようになったことを機に役員に就任して
もらったものである。
〇 Cは請求人の取締役であった同人の夫が死亡した時に退職金を
支払うことができなかったことから、退職金の代わりに報酬を
支払うために取締役に就任してもらったものである。
〇 Aは●●家の資産に関する実権を有し、請求人の資金面に
深くかかわっている。
〇 Bは近隣のパチンコ店の状況に精通し、従業員から相談を受ける機会も
多く、請求人の経営に関してXにいろいろ助言をしている。
〇 見田村補足:Cについては、請求人は何も主張していない。
しかし、国税不服審判所は請求人の主張を認めませんでした。
〇 A、B、Cは業務執行権を有しておらず、社員総会及び取締役会に
出席する程度のいわゆる非常勤の取締役である。
〇 非常勤の取締役に対する役員報酬の平均額を計算した数値は下記。
・ 平成4年7月期:122万円
・ 平成5年7月期:116万円
・ 平成6年7月期:180万円
〇 Aの請求人への貢献については、請求人の資金面に深くかかわっている
とのXの答述があり、請求人の銀行借入金の担保に個人資産を提供し、
資金の運営に深く関与しているとの請求人の主張がある。
しかしながら、同人が所有する土地に取締役Yを債務者、D銀行を
債権者とする根抵当が設定されている事実は認められるが、
請求人との関係は不明である。
仮に請求人が主張するように、請求人に担保提供していたとしても、
担保提供に対する対価は役員の職務執行に対する対価ではない。
担保提供以外の職務執行の事実については、請求人の主張も関係者の
答述もない。
〇 Bの請求人への貢献については、近隣のパチンコ店の状況に精通し、
従業員から相談を受ける機会も多く、請求人の経営に関し助言を
しているとのXの答述があるが、これらの事実を裏付ける証拠はない。
〇 売上高及び売上総利益は平成4年7月期を100とすると、
平成5年7月期はそれぞれ115.6及び100.2、
平成6年7月期はそれぞれ107.2及び109.4になる。
〇 勤続者1人当たりの平均給与支給額及び使用人給与の最高額は
平成4年7月期を100とすると、
平成5年7月期はそれぞれ104.9及び104.0、
平成6年7月期はそれぞれ106.4及び104.1になる。
〇 これに対して、A、B、Cに対する役員報酬は平成4年7月期を
100とすると、
Aは平成5年7月期130.8、平成6年7月期133.6、
Bは平成5年7月期201.1、平成6年7月期210.3、
Cは平成5年7月期180.9、平成6年7月期188.2、
となることから、売上高、売上総利益及び使用人給与と比較して
相当高い伸び率であると認められる。
〇 請求人は、本件役員報酬は、いずれも従業員上位4名の給与支給額と
比較した場合に、不相当に高額ではない旨主張する。
しかしながら、A、B、Cはいずれも勤務形態が非常勤であることを
考えれば、常勤である上位4名の給与支給額と本件役員報酬の額とを
単に支給総額により比較することは相当ではない。
〇 A、B、Cの三者三様の貢献について請求人はこれを明らかにしていない。
〇 請求人が職務の内容について何ら主張しないCの報酬がBの報酬よりも
高いことを考えれば、請求人の主張は合理性がないといわざるを得ず、
この点に関する請求人の主張には理由がない。
結果として、本審査請求は棄却され、A、B、Cの適正役員報酬は
・ 平成4年7月期:122万円
・ 平成5年7月期:116万円
・ 平成6年7月期:180万円
と判断されたのでした。
本件で否認された役員報酬は年収ベースで、408万円〜954万円であり、
あり得ない程、高額な訳でもありません。
しかし、伸び率が高いこと、類似法人の平均値と乖離していること等から
判断すれば、否認もやむを得ないでしょう。
中小企業の経営者はこういう点を甘くみていたりもします。
だからこそ、皆さんが「どういう基準で否認されるのか?」を
しっかり伝えていく必要があるのです。
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