預金の存在を隠した=重加算税ではない、とされた事例
※2016年1月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「預金の存在を隠した=重加算税ではない、とされた事例」
ですが、平成28年4月25日の裁決を取り上げます。
国税庁が平成27年分の相続税の申告状況を昨年12月に発表し、
「死亡した人の数」で「申告した被相続人の数」を割った割合は
平成26年は4.4%だったものが、平成27年は8.0%になりました。
これは基礎控除額が減額されたことによる課税範囲の拡大が理由ですが、
このことにより、無申告事案というものがより増える可能性もあります。
当然、無申告事案につき、重加算税と指摘されることもありますが、
これに関して、非常に興味深いのが本裁決です。
詳細は全文をお読み頂きたいのですが、
国税不服審判所は下記と判断したのでした。
〇法令解釈(無申告加算税に代えて重加算税を課す場合)
法定申告期限の前後を含む、外形的、客観的な事情を合わせ考えれば、
真実の相続財産を隠ぺいし、秘匿しようという確定的な意図、態勢の下に、
計画的に納税申告書を提出しなかったときには、通則法第68条第2項が
規定する「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに
基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に
納税申告書を提出していた」場合に当たると解するのが相当である(最高裁
平成6年11月22日)。
〇当てはめ
・請求人は、本件相続税の法定申告期限前において、本件各口座の預金の
相続手続を行っているところ、本件被相続人の相続人は請求人のみであり、
自らが全部相続したことを前提に、本件各口座の預金を相続手続により
自己名義の預金口座に預け替えたりしたというだけでは、請求人が
本件各口座の預金を隠ぺいし、又は仮装したと評価することはできず、
ほかに、請求人が本件相続税の法定申告期限前において本件各口座の預金を
隠ぺいし、又は仮装した事実はない。
・次に、請求人は、本件相続税の法定申告期限後において、本件お尋ね
回答書に本件各口座の預金を記載せずに原処分庁に提出し、また、本件
相続税の調査の際、本件調査担当者に対して、本件お尋ね回答書の
記載内容に沿った申述をし、本件各口座の存在を隠している。
・しかしながら、請求人は、本件調査担当者から本件各口座の相続手続に
ついて指摘されるとその存在を認めており、本件各口座の預金を隠す
態度を一貫していたとはいえない。また、請求人は、本件各口座が
発見されることを防止したり、本件各口座の預金が相続財産に含まれない
ように装ったりする等の積極的な措置を行っていないことからすれば、
本件お尋ね回答書を提出したことや、調査の当初は本件各口座の存在を
隠していたことをもって、隠ぺい又は仮装の行為と評価することは
困難である。
・そして、請求人は、法定申告期限の前後において、積極的な隠ぺい
又は仮装の行為を行っていないことからすれば、請求人が、本件相続税の
法定申告期限経過時点において、本件相続税の調査が行われた場合には、
積極的な隠ぺい又は仮装の行為を行うことを予定していたと推認することは
できない。
・以上に照らすと、請求人は、本件各口座の預金を隠ぺいし、
秘匿しようという確定的な意図、態勢の下に、計画的に本件相続税の
申告書を提出しなかったとまではいえないというべきであるから、
請求人は、隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに
申告書を提出しなかったとはいえず、通則法第68条第2項に規定する
重加算税の賦課要件を満たさない。
〇原処分庁の主張について
原処分庁は、本件被相続人が、生活に通常使用する預金口座を
本件Q口座のみとすることにより、本件各口座を隠ぺいし、請求人が、
その状況を利用して、本件相続税の申告書を提出しなかったのであるから、
請求人は重加算税の賦課要件を満たす旨主張する。
しかしながら、地元の複数の金融機関に自己名義の預金口座を開設し、
特定の口座のみを生活に通常使用する口座とすることは、何ら不自然な
ことではなく、その他に、本件被相続人において、本件各口座を解約して
他の種類の財産にし、あるいは、本件各口座の名義を請求人に変更した
といった事情もないことからすれば、本件被相続人が本件各口座を
隠ぺいしたとは認められない。
いかがでしょうか?
課税範囲が広がったことにより、同様の事案は増えるものと推察します。
そもそも論として、無申告の場合につき重加算税を賦課することは
過少申告の場合に比べて難しい側面もありますが、本裁決は非常に
興味深い事案です。
是非、覚えておいて頂き、同様の状況で「重加算税」と指摘をされた場合の
参考情報としてご活用頂ければと思います。
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