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2016.07.05

1年8か月の居住期間は一時的な居住か?

※2015年4月配信当時の記事であり、

以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

さて、今回は「1年8か月の居住期間は一時的な居住か?」ですが、平成22年7月14日の東京地裁判決を取り上げます。

なお、本件は東京高裁でも敗訴し、最高裁(平成23年7月7日)にて、上告不受理で確定しています。

この裁判は約1年8か月に渡り、居住した下記不動産に関し、租税特別措置法31条の3(居住用財産を譲渡した場合の軽減税率)、35条(居住用財産を譲渡した場合の特別控除)を適用して申告したところ、更正されたものです。

(土地)

所在 港区

地番 略

地目 宅地
 
地積 127.83平方メートル

(家屋)

所在 港区

家屋番号 略

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根3階建
  
種類 店舗事務所
  
床面積 1階 45.99平方メートル

    2階 70.85平方メートル

    3階 70.85平方メートル

では、時系列にまとめてみましょう。

(1)平成16年3月3日

株式会社B(以下「B」という。)との間で、有効期間を3か月、媒介価格を2億1400万円とする本件不動産の売買の専属専任媒介契約を締結

(2)平成16年6月3日、平成16年9月4日

媒介価格を1億9450万円とした

(3)平成16年7月18日

本件建物に入居

(4)平成17年1月7日、平成17年4月8日

有効期間を3か月、媒介価格を1億9450万円とする一般媒介契約を締結

(5)平成17年7月11日、平成17年10月11日

有効期間を3か月、媒介価格を1億8500万円とする専属専任媒介契約を締結

(6)平成17年11月27日

株式会社Aとの間で、本件不動産を代金1億8200万円で売り渡す契約を締結

(7)平成18年2月28日

本件不動産を引き渡した

以下、事実関係です。

○平成16年9月4日付けの上記の専属専任媒介契約の有効期間満了後、平成17年1月7日付けの一般媒介契約が締結されるまで、約1か月の期間があるが、その間も原告らは本件不動産を売却する意思を有していた。

○原告らは、本件建物に入居する前、賃貸住宅に入居していたが、下水管のトラブル等があったため退去することとし、平成16年7月18日、本件建物に入居した。

○しかし、原告らは、本件建物の周囲の環境が余り居住に適さないことから、本件建物にずっと住み続けようとは思っていなかった。

○本件建物には風呂の設備はなく、原告らの入居後もリフォーム等は行われていない。

○原告らは、平成17年11月27日、株式会社Aとの間で、本件不動産を代金1億8200万円で売り渡す契約を締結し、平成18年2月28日、

同契約に基づき本件不動産を引き渡した。

○原告らは、平成19年3月14日、それぞれ平成18年分の所得税の

確定申告をし、この確定申告の確定申告書には、いずれも、本件不動産の譲渡所得につき、租税特別措置法31条の3及び同法35条の適用を受けようとする旨が記載されていた。

この前提の下、東京地裁は下記と判断しました。

○原告らは、平成16年7月18日に本件建物に入居しているが、入居以前の同年3月3日から本件不動産の譲渡に至るまでほぼ継続的にBと本件不動産の売買の媒介契約を締結していたこと及び上記各媒介契約の有効期間外であった平成16年12月4日から平成17年1月6日までの期間についても、原告らは本件不動産を売却する意思を有していたことが認められ、原告らは、本件不動産を売却する意思を有し、Bに依頼するなどしてその売却先を探している状態で、本件建物に入居したと認められる。

 

○原告らは本件建物入居後においても本件建物に住み続けるつもりは

なかったこと、本件建物は、もともと事務所としての用途に供することを

予定して建築されたもので、風呂の設備がなかったにもかかわらず、

リフォームなどは行われなかったことが認められる。

○これらの事実によれば、原告らは、本件不動産の買手を見付けることができるまでの間、一時的に利用する目的で本件建物に入居したと認めるのが相当であり、原告らが本件不動産を譲渡したことは、本件各特例の適用の要件である居住の用に供している家屋等の譲渡には当たらないというべき。

○原告らは、本件建物に平成16年7月から平成18年2月まで、約1年

8か月間居住しているが、これは、本件不動産の買手を見付けることができ次第退去する予定であったにもかかわらず、なかなか買手を見付けることができなかったことによるものと考えられ(原告らは、本件建物の媒介価格を次第に下げており、結局、当初の媒介価格の約85%の価格で売買契約を締結している)、上記判断を左右するものではない。

○他に原告らの居住用の家屋がなかったとしても、原告らが本件建物を一時的に利用する目的であったとの認定を覆すに足りるものではなく、上記判断は左右されない。

いかがでしょうか?

本件のような居住用財産の特例に関する税務については、あくまでも事実認定の問題であり、「真に居住の意思を持って客観的にある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋」ということが重要な要素です。

本件においては、約1年8か月の居住期間があったとはいえ、媒介契約の依頼日、風呂の設備が無かったことが大きな要因でした。

もちろん、世の中には風呂無しのアパートも存在することから、風呂が無いからと言って、直ちに居住用財産ではないと判断されるものではありません。

しかし、一戸建て等の場合は風呂が無いという事実は継続的な居住の意思というものを判断する上で大きなものとなるでしょう。

もちろん、本件不動産と全く同じ状況であったとしても、媒介契約の締結日などの事実認定によっては、特例の適用が認められるべきと考えます。

(そこまでは記載されていませんが、原告は本件建物に居住していた期間は銭湯に通っていたのでしょう。)

居住用不動産に関する特例については、譲渡に限らず、強引な状況に

持ち込み、何とか特例の適用を受けようとする事例も見受けられます。

しかし、その場合は否認リスクがありますので、充分な事実関係の精査が必要なのです。

 

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