分掌変更による役員退職金の実質的な判定要素
※2023年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガでは、役員退職給与(役員退職金)の
論点の中でも、最も税務調査での否認リスクが高い
「分掌変更による役員退職金」を否認された場合の課税関係を
解説しましたが、今回は最新の裁決事例を取り上げ、
否認リスク・判定要素がどこにあるのかを解説していきます。
分掌変更による役員退職金を規定した通達は
法人税基本通達9-2-32になるわけですが、
この論点を集約すれば
分掌変更後も【経営上主要な地位を占めている】
=
実質的に退職したと同様の事情にない(否認)
という実質要件に尽き、「常勤から非常勤」「取締役から監査役」
「給与が50%以上減少」などは形式要件に過ぎません
(形式要件を満たしても実質要件を満たさなければ否認される)。
この【経営上主要な地位を占めているか】という通達規定は、
みなし役員の要件である「経営に従事しているか」と同じになります。
一般的に、「経営に従事しているか」の判断(事実認定)は
下記のような要素によって総合勘案されると考えられます。
・経営方針の決定
・主要取引先の選定/重要な契約に関する決定
・借入の計画・実行
・従業員の採用
・資金繰りの決定
・従業員賞与の査定
・従業員の労務管理
・組織変更などの重要事項の決定
・事務所等の移転の決定
分掌変更による役員退職金を争った事例は多くありますが、
最近の事例であり、かつ納税者側が勝った公開裁決事例として
下記が挙げられます。
「請求人が請求人の元代表者に退職金として支払った金員は、
当該元代表者に退職の事実があるから、損金の額に算入される
とした事例」(令和2年12月15日裁決)
なお、この裁決事例は前提事実と争点が多く読みにくいです。
大阪国税局・審理課が出している下記の資料は
2ページでシンプルにまとまっていますので、
こちらをご覧いただいた方がわかりやすいでしょう。
この裁決事例で興味深いのは、スカイプやメールのみならず、
Line(裁決事例内で○○○○という名称の
ソーシャルネットワーキングサービスとされています)の
やり取りまで事実認定の要素となっていることです。
さて、本裁決事例を総じて解釈すると、
上記大阪国税局・審理課の資料にもあるとおり、「国税側の
主張(事実認定)は具体性・客観性に欠ける」というものです。
裁決内でも「原処分庁がその認定の根拠として摘示する各事実には、
いずれもその裏付けとなる退職当時の客観的な証拠がなく、
各関係者の各申述においても、本件元代表者の請求人への
具体的な関与状況が明らかではない。」と断じられています。
分掌変更による退職金の論点=経営に従事しているかという論点は、
実際の税務調査の中でも調査官の指摘が具体性に欠けるケースが
多くありますが、その場合はこの裁決事例を提示するが
かなり有効となり得るでしょう。国税側が負けており、
かつ国税自身がその旨を資料に明記しているわけですから。
来週水曜の本メルマガでは、筆頭株主・大株主であることを理由に
分掌変更による退職金が否認されるのかについて解説します。
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