2024.10.04

筆頭株主である役員の分掌変更退職金は認められるのか?

※2023年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

先週水曜の本メルマガでは、分掌変更による役員退職金の
実質的判定要素である「経営に従事しているか」について、
最新の公開裁決事例をもとに解説しました。今回は、
筆頭株主・大株主である役員が分掌変更をした場合に、
退職金が認められるのか、というよくある論点について解説します。

中小企業の場合、一般的には経営者と株主が一致している
実態があることから、筆頭株主・大株主の役員に対して
分掌変更退職金を支給している場合、税務調査においては
否認指摘されるケースが多いでしょう。

一方で、筆頭株主・大株主だからという理由だけで
分掌変更の退職金を否認されるわけではありません。例えば、

●親族(子供等)に経営を譲ったが株式の移転は進んでいない
:一気に株式移転ができず、新任代表者(子供)よりも
創業者(親)の方が株式保有割合が圧倒的に高いようなケース

●親族以外の第三者に経営を譲ったが株式は親族内保有する
:完全に経営の立場から退き、経営を監視する立場になるケース

など、創業者=筆頭株主・大株主が代表退任後も
「社外取締役」「監査役」「顧問」「相談役」などの立場として
残ることも現実的にはあるわけです。

この論点に関し、最も有名な判決として
東京地裁平成20年6月27日判決
(TAINSコード Z258-10977)
があり、絶対に知っておくべき判断内容となっています。

なお、この判決が出されてから、国税は筆頭株主・大株主だから
という理由だけで分掌変更の退職金を否認しない(できない)
と方向性を変えたと言われるリーディングケースです。

また、この裁判における論点は、「未払計上(利益操作の指摘)」
「株主総会議事録が2通あり、内容に齟齬がある」など、
納税者の作為的行為が判断要素に含まれていて、かなり複雑となって
いますが、今回のメルマガの趣旨に則った部分だけ取り上げます。

本判決では「乙が筆頭株主としてX会社に何らかの影響を
与え得るとしても、それはあくまで株主の立場からその議決権等を
通じて間接的に与え得るにすぎず、役員の立場に基づくものではない
から、株式会社における株主と役員の責任、地位及び権限等の
違いに照らすと、X社における株式保有割合の状況は、
乙が実質的に退職したと同様の事情にあると認める
妨げとはならないというべきである」と判示しています。

つまり、【筆頭株主=経営上の主要な地位とは限らない】
という結論なのです。会社法の建付けから考えれば当然なのですが、
株式会社においては経営と所有が分離されて法律が構成されています。
株主の立場は株主総会での議決権により影響を与えるにすぎず、
役員の立場と同一でないことは明白です。

この結論は先週水曜のメルマガでも解説した内容とまったく同じで、
筆頭株主・大株主であったとしても、退任後に実態として
「経営に従事していない」のであれば、分掌変更による
役員退職金が否認されることはないのです。

今回紹介した判決について、もう少し詳しく知りたいという方は、
下記の過去メルマガ記事を参考にしてください。

「分掌変更と持ち株数の関係」

さて、来週水曜の本メルマガでは、分掌変更の役員退職金は
未払計上が認められるのかについて解説します。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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