みなし役員と特殊関係使用人の区分
※2021年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
中小企業においては社長=株主の場合が多く、
かつ社長親族が(役員ではなく)使用人となって
給与・賞与などを支給しているケースが散見されます。
このような場合において、税務調査で
否認指摘を受ける可能性があるのは、
「親族に対する給与・賞与は損金不算入」と
されるものですが、ここで調査官も否認根拠が
混同・誤っている場合が多くあります。
「みなし役員」と「特殊関係使用人」が
誤って解釈されるようなケースです。
●みなし役員
会社法(私法)上は役員ではなくても、
税務上は役員として取扱うものです。
みなし役員の要件は「株式保有割合」(形式要件)と
「その会社の経営に従事している」(実質要件)の
【両方】を満たしている場合となります。
税務調査において調査官は往々にして、
形式要件のみで「みなし役員」として否認指摘する
一方で、納税者・税理士が「経営に従事していない」
という実質要件で反論しない・できていないために、
否認指摘を受け入れるケースが多いです。
「経営に従事する」とは税法上に明確な定義はなく、
あくまでも事実認定・実体判断によるものですが、
判決・裁決などを参考にすると、「事業運営上の
重要事項に参画」することを意味することになります。
法人の重要事項の決定とは、例えば下記などです。
・経営方針の決定
・主要取引先の選定・重要な契約に関する決定
・借入の計画・実行
・従業員の採用
・資金繰りの決定
・従業員賞与の査定
・従業員の労務管理
・組織変更などの重要事項の決定
・事務所等の移転の決定
みなし役員と判断・認定される場合、
役員給与の規定に従う必要があることから、
「定期同額を満たさない」「賞与の支給」
「給与ではなく外注費」などは
否認されることになります。
上記「みなし役員」とは【別論点】として、
「特殊関係使用人」の否認指摘があり得ます。
たとえば、みなし役員の株式保有割合要件を
満たさなくても、特殊関係使用人を論拠とした
否認指摘はあり得るということです。
●特殊関係使用人
使用人に支給する給与(給料・賞与・退職給与)は
原則として損金になるわけですが、経営者が
親族などに給与を支払うことで法人税の負担を
軽減するなどの防止策として規定されています。
特殊関係使用人の範囲は下記となっています
(法人税施行令第72条)。
一 役員の親族
二 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者
三 前二号に掲げる者以外の者で役員から
生計の支援を受けているもの
四 前二号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
みなし役員の場合、形式基準に加えて実質基準が
かなり曖昧となっていますが、特殊関係使用人は
親族を中心としていますので、その判断は
かなり明確にできるはずです。
特殊関係使用人に該当する場合、
「不相当に高額な部分の金額」について損金不算入
とされています(法人税施行令第72条の2)。
なお、過大給与の判定は、過大役員報酬と同様に
以下の要件とされています。
・使用人の職務の内容
・法人の収益の状況
・他の使用人に対する給与の支給の状況
・同業類似法人の使用人給与の支給の状況
このことから、税務調査において特殊関係使用人と
認定されたとしても、支給給与額が低額の場合、
否認される可能性は低くなります
(勤務実態が全くない親族などを除く)。
このように、税務判断をするうえで、また
税務調査で指摘された際に、みなし役員と
特殊関係使用人の論点が混在している場合が
多いので、整理したうえで理解する必要があります。
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