不正・横領の税務/第1回:原則的な考え方
※2021年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
税務調査の時期になると、間違いなく出てくる
質問・相談事項として、不正・横領があった場合の
税務処理・調査対応があります。
今回のメルマガから複数回にわたり、法人で
不正・横領が発覚した場合における、
税務的な論点を全般的に解説していきます。
まず、不正・横領に関する税務処理として
論点になるのは、下記の項目など多岐わたります。
●所得の帰属(不正・横領において得た
収益は誰に帰属するのか?というそもそも論)
●法人における損害賠償請求権などの計上時期
(従業員不正と取引先などによる不正の相違)
●損害賠償請求が実質的にできない場合
(無資力など)の貸倒損失の要件・計上時期
●法人に重加算税が課される要件
本メルマガではこの全ての論点に対して
順次解説していきますが、第1回の今回は
損害賠償請求権の認識・計上時期について、
まずは原則論(同時両建説)を取り上げます。
経理担当の社員が、外注費と装って
(もちろんモノの納品・役務提供などはない)
自らが代表となっている法人に金銭を振込んでいた
(2年前)ことが、税務調査(当期)で
発覚した事例で考えてみましょう。
【当初の処理】(Nー2)期
外注費 100 / 現預金 110
仮払消費税 10
【不正発覚時(N期)の処理】(Nー2)期に遡及
横領損失 110 / 外注費 100
仮払消費税 10
損害賠償請求権 110 / 収益 110
このように、社員による不正が発覚した場合、
実際には外注費がなく、不正・横領による損失を
計上することになり、それと同時に横領をした
社員に対して損害賠償請求権(と対応する収益)
が同時に計上されることになります。
また、あくまでも不正・横領は2年前ですから、
【遡って】上記の処理が行われることになります。
これは「同時両建説」と呼ばれるもので、
社内不正があった場合の原則的な考え方になります。
※原則があれば例外があるわけですが、
社内不正の場合のほとんどのケースで
同時両建説になると考えていただいて結構です
このことから(原則的な考え方を適用すれば)、
不正発覚時は2期前の修正申告が必要で、
損害賠償請求権に該当する法人所得が100増加、
また(実際にはなかった)外注費に対応した
消費税10の両方が修正申告の対象となります。
ここでよく出てくる感情論としては、
「不正された(被害を受けた)法人側に
なぜ益金がたつのか?」というものですが、
その論理的な回答としては、
・損害を被った法人側には法律上の損害賠償請求権
(不法行為による求償権)が生じるから
・実質的に損害賠償請求できない事情があるなら
(別途で)貸倒損失で損金計上すればいいから
・法人側が損害を被ったとはいえ、
社内で起きた不正を防げなかったことについては
法人側にも責任がある(と考えられる)から
という考え方があります。
同時両建説を理解してないと、税務調査で
指摘されても論理的な対応ができませんので、
ぜひこの原則的考え方は理解を深めてください。
さて、来週水曜のメルマガでは、上記の考え方を
ベースにしながら、益金の計上時期が異なる
「異時両建説」について解説していきます。
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