事前の帳簿提出要請と調査開始日~加算税のリスク
※2023年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
コロナ禍になって、税務調査における実務上の「通例」が
いくつか大きく変わったと感じます。税務調査の件数については
今年から通常に戻るとは思っていますが、
・年末年始の上期~下期をまたぐ調査が一般的になった
(以前であれば年末までに終わらせる動機が強かった)
・決算月と調査時期の関係が崩れつつある
加えて、事前通知において調査日程が先になった場合、
事前(調査初日前まで)に帳簿書類やデータの
提出を求められることも、コロナ禍で変わった点でしょう。
「調査前に帳簿書類・データの提出を求められていますが、
対応しなければならないでしょうか?」という質問・相談が
増えましたが、これに対する回答は「あくまでも要請なので
応じなければならないわけではない」となります。
要請=お願いですから、応じても応じなくてもいいのですが、
あえて応じるメリットがあるとすれば、調査官の臨場時間が
短くなることから、多忙な顧問先・納税者の方であれば
応じるメリットがあるのかもしれません。この点は、
調査後の「留置き」と同じ基準で判断すべきです。
さて、調査前の資料提出と、調査開始後の留置きで
明確に相違する点として気を付けるべきは、
調査初日(臨場)前に資料を提出した場合、
「提出したその日が調査開始日」になるということです。
一般的には、「事前通知~調査初日(臨場)前」に
修正申告を提出すれば5%の加算税で済むわけですが、
「事前通知~資料提出~修正申告~調査初日(臨場)」
となると、この修正申告は調査開始日以後となり、
加算税が10%となります(なる可能性が高いです)。
この「調査開始日はいつか?」の論理は、
●調査官が調査前に帳簿等の提出を要請する行為
=あくまでも要請であり、単なる打合せにすぎない
と解釈できる一方で、
●調査官の要請に応えて帳簿等を提出した
=質問検査権の行使に応じた
(調査官が提出された帳簿等を確認できる状況は
調査が開始されたと解釈しなければ適法性はない)
ということで、税務調査の初日を迎えていなくとも、
調査が開始されたという解釈になるわけです。
以上のことから、顧問先の承諾を得て
調査官の要請に応えた場合であっても、
調査(臨場)初日までに修正申告をするメリット
=5%の加算税減免措置がなくなりますので、
・顧問先には事前にリスクを説明する
・要請に応えるにしても事前の確認・精査をしたうえで
帳簿・データ等の提出をすべき(事前に誤り・漏れ等を
見つけられなかったので修正申告する予定はない状況)
ということになります。この論点はあまり意識されず、
要請に応えたからこそ加算税5%分を損をしたという
状況になりがちですので、ぜひ注意してください。
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