修繕費か?資本的支出か?この分岐点となる考え方(その1)
※2017年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「修繕費か?資本的支出か?この分岐点となる考え方(その1)」
ですが、平成17年4月26日の裁決を取り上げます。
今回から3回シリーズで、このテーマを取り上げ、最後に総括します。
なお、3回シリーズということは3週間あるので、
その間に取り上げるべき事例が新たにあった場合は4〜5回に
するかもしれません。
また、今後は「基本的には」と付けさせて頂きますが、
同じテーマで数回お伝えし、俯瞰的に理解できるようにしていきます。
よろしくお願いします。
では、最初に本裁決を取り上げた理由です。
それは「修繕前と『完全に』同じ素材でないといけないのか?」
ということはよくご相談にも出る内容ですが、
これについて触れられているからです。
では、具体的な内容にいきましょう。
本裁決は「請求人が営む病院の建物の外壁改修工事(以下「本件工事」)
に係る費用が修繕費として必要経費に該当するか否か?」が
争われた事例です。
下記が修繕の詳細です。
〇 仮設足場(東南北西面)一式:3,578,000円
〇 タイル面改修工事(東西小口タイル)一式:1,827,200円
〇 外壁塗装工事(東南北西面)一式:4,040,350円
〇 塔屋塗装及び屋上塗装工事一式:760,250円
〇 その他(共通仮設西廃材処分)一式:934,000円
● 小計:11,139,800円
〇 諸経費一式:650,000円
〇 磁器タイル浮き部工事(東南北面):2,172,000円
〇 クラック工事(東南北面):1,244,000円
〇 浮き部工事(西北面):810,000円
〇 クラック補修工事(西北面):458,000円
〇 屋上手摺及び看板工事一式:220,000円
● 小計:5,554,000円
● 合計:16,693,800円
ちなみに、この事例は「ピン止め工法を用い、それまで水性リシンによる
塗装であった外壁全体に耐久性のあるアクリル弾性塗装を施している」
という前提です。
つまり、使われている塗装材料が違うのです。
このこと等により、国税は
〇 耐久性が増している。
〇 本件工事は建物の価額を増加し、建物の使用可能期間を延長させるもの
〇 通常の維持補修の限度を超えている
〇 資本的支出に該当
と主張したのでした。
しかし、国税不服審判所は下記と判断したのでした。
〇 塗装工事では、アクリル弾性塗装を行ったが、これは汎用性があり、
一般的な工法である。
〇 タイル及びモルタルの浮き部分でピン止め工法を行ったところは、
樹脂を注入し、強度も上がっているが、すべての面についてピン止め工法を
行ったわけではなく、これを施工していないところが将来浮き上がってくる
可能性がある。
〇 一般的には、建物外壁の耐久性は、アクリル弾性塗装を施した場合、
水性リシン塗装に比べ2倍程度増加するが、本件建物の場合には、
かなり老朽化しているため、アクリル弾性塗装であっても、
どの程度耐久性があるか不明である。
〇 ピン止め工法やアクリル弾性塗装が行われた場合、通常は建物の
耐用年数が増加すると考えられるが、本件建物がかなり老朽化しているため、
アクリル弾性塗装であっても、どの程度耐久性があるか不明であり、
また、建物のすべての面についてピン止め工法を行っていないから、
同工法を施工していない部分が将来浮き部となる可能性があることが
認められ、本件工事によって、本件建物の使用可能期間を延長させると
認めることはできない。
〇 (1)本件工事前の本件建物の状況はモルタルが劣化し、タイルが
一部欠落するなど、破損のひどい状況であり、モルタルが剥離して落下し、
通行人がけがをする危険のある状態であったこと、
(2)ピン止め工法、アクリル弾性塗装はいずれも一般的な工法に
すぎないこと、
(3)本件工事後もコンクリートの剥離、モルタル部分の浮き、塗装の
剥離等が存し、看板の支柱部分は腐食が進行し、穴が空いている部分が
見受けられること
などから、本件工事により、本件建物の価値が増加したと認めることはできない。
〇 本件工事により、本件建物の使用可能期間が延長したと認めることも、
本件建物の価額が増加したと認めることもできず、本件建物については
その修繕は必要不可欠であり、本件工事の手法は一般的な工法であったと
認められるから、本件工事は当該固定資産の通常の維持管理のために
行ったものであり、これを修繕費と認めるのが相当である。
いかがでしょうか?
〇 従前と塗装材料が違っている
〇 一般的には、建物外壁の耐久性が従前の塗装に比べ、2倍程度増加する
〇 通常は建物の耐用年数が増加する工法、塗装
という状況であっても、本件建物の状況という事実認定により、
「全額が修繕費として必要経費でOK」と判断された事例です。
もちろん、ここは工事の内容、建物の状況という事実認定の世界ですので、
一概に言うことはできません。
しかし、「従前の素材と同じでなければならない」ということはないので、
覚えておいて頂ければと思います。
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