修繕費か?資本的支出か?この分岐点となる考え方(その3)
※2017年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「修繕費か?資本的支出か?この分岐点となる考え方(その3)」
ですが、平成13年9月20日の裁決を取り上げます。
本裁決で争点となった修繕工事はいずれも「雨漏り防止工事」であり、
3物件あり、下記の工法、金額でした。
〇 本社倉庫:カラートタンで屋根を覆い被せた工事(屋根カバー工法)、
14,500,000円
〇 流通センター:陸屋根の上に鉄骨を組みアルミトタンで
屋根を葺いた工事(折板屋根工事)、10,935,239円
〇 賃貸ビル:陸屋根の上に鉄骨を組みカラー鉄板で屋根を
葺いた工事(折板屋根工事)、21,714,286円
そして、これらの3物件の状況は下記のとおりです。
〇 本社倉庫:屋根のスレート部分は、建築後20年以上経過しており、
雨漏りが20箇所以上で発生し、また、同カラートタン部分は、
同じく20年以上経過し、鉄板の腐食がひどく、雨漏り防止のため
社員が毎月コーキング剤(水漏れ防止剤)で修理をしていた。
〇 流通センター:陸屋根のため雨漏りの箇所が特定できず、何回となく
防水塗装等を行ったが、依然として雨漏りは続いていた。
〇 賃貸ビル:陸屋根のため雨漏りの箇所が特定できず、平成2年に
ビニール防水加工による工事を行ったが、再度雨漏りが始まった。
この状況の下、国税不服審判所は下記と判断したのです。
〇 本社倉庫:資本的支出
・ 屋根の20箇所以上の亀裂から雨漏りが発生したもので、
その亀裂に対して個別に修理ができたにもかかわらず、
その屋根の上にカラートタンで屋根全体を覆い被せた屋根カバー工法
により工事を行ったものであり、耐用年数の到来が近い屋根を
新たにカラートタンで覆う工事は、屋根の耐用年数を延長する工事と
認められ、単に雨漏りする箇所のみを修繕する応急的な修復工事、
すなわち、単にその資産の通常の効用を維持させるための補修とは
認められない。
・ 屋根カバー工法による工事は、工事全体で新たな屋根を
完成させるものであることから、全体を一工事とみるのが相当であり、
これに要する工事費用もその支出の内容を個々に検討する必要は
認められない。
〇 流通センター、賃貸ビル:修繕費
・ 陸屋根の特定できない部分からの雨漏りのため、陸屋根の上に
鉄骨を組みアルミトタン又はカラー鉄板の屋根で覆った折板屋根工事
による防水工事である。
・ 一般的に鉄骨・鉄筋コンクリート造の陸屋根式建物は、雨漏りが
いったん発生すると雨漏りの経路が分かりにくく完全に修理することは
困難だといわれており、工事業者の答述においても、流通センター及び
賃貸ビルに係る工事は応急的に行なわれたものであり、この工法が
雨漏りを防ぐ一番安価な方法であったことが認められ、
さらに、過去何度となく補修工事を行っていたにもかかわらず
雨漏りが続いていたこと等を考慮すると、本件工事を行わない場合には
漏水による建物各部分への影響が不可避であり、結果的に当初予測した
建物使用可能期間を短縮させることになるとともに、本工事によって
新たに生じた屋根裏の空間には利用価値が認められないことから、
納税者が施工した陸屋根全体を覆う防水工事は、建物の維持管理
のための措置であったと認められる。
裁決(平成元年10月6日)でも「資本的支出と修繕費との区分は、
支出金額の多寡によるのではなく、その実質によつて判定することと
解される」と示されているとおり、多額かどうかは関係ありません。
しかし、実際に実務においては
〇 修繕に伴う物理的付加がある
〇 金額が多額である
という場合は「資本的支出である」との判断をしがちです。
しかし、そうではありませんので、ご注意頂ければと思います。
なお、「近畿税理士会」(平成25年4月10日第588号)に
本裁決に関し、興味深い内容が掲載されているので、追記します。
添付書面の顕著な増減事項
(1)書面添付制度の目的
税理士は、税理士法第1条の使命に則り、依頼者が不利な選択を
しないようにしながら、適正な申告納税の指導または税務代理を
しなければなりません。
したがって、税理士は依頼者の要望に従うだけでは足りず、税理士自身が
納税義務の適正な実現について判断しなければならないのです。
税理士法第33条の2各項に規定する添付書面(以下「添付書面」)は、
税務申告書だけでは不明な租税債務確定の過程について、税理士が
どのような事実を確認し、どのような判断に基づいて適正な租税債務と
判断したかを開示するための法定の書類です。
したがって、例えば当期において顕著な増減に該当する項目があった場合には、
税理士が行った該当項目に係る事実の確認や法解釈に関する判断を
添付書面9号様式の「(1)のうち顕著な増減事項」の欄(以下「顕著な
増減事項の欄」)に丁寧かつ具体的に記載することが重要です。
(2)通達に沿って事実を確認する場合
例えば、地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに
要した費用の額を修繕費として処理したい場合には、通常の年度より
修繕費が多額となりますが、法基通7−8−2において、原則として
修繕費として認める旨が明らかにされています。
このように、通達において具体的な事例が例示されている場合には、
その通達に沿う形で事実を確認した旨を顕著な増減事項の欄に、
例えば次のように記載することになります。
「本件の工事は、依頼者が所有する○○町○○番地所在の倉庫の敷地の
一部が○○cm地盤沈下したことにより、地盤沈下前の状態に戻すための
工事であり、工期は○年○月○日から○年○月○日、○○工務店に依頼して
地盛工事を行いました。なお、工事前後の写真と工事明細、○○工務店
発行の請求書のコピーを税理士事務所で保管しており、請求書に該当する
支払いを確認しています。また法基通7−8−2に示される、土地の
取得後直ちに地盛りを行った場合、土地の利用目的の変更その他土地の
効用を著しく増加するための地盛りを行った場合及び地盤沈下により
評価損を計上した土地について地盛りを行った場合には該当していない
ことを確認しました。」
このように、どのような事実を確認したかを具体的に記載し、
また通達に条件が示されている場合にはその条件を確認した上でその旨を
記載するなど、丁寧な記載が望まれます。
(3)税理士自らが実質判断しなければならない場合
平成13年9月20日裁決(TAINS F0−2−119)では、
陸屋根造りの屋根については、雨漏りの箇所が特定できず、過去に
何度となく応急的に防水工事を行っていたにも関わらず、雨漏りが
続いていたこと等を考慮し、その雨漏り防止のための工事費用を建物の
維持管理のための修繕費とするのが相当であるとされた事例が
紹介されています。
この事例は、通達には例示がなく、修繕費について実質的な判断をする
必要がありますが、裁決では3棟のうちの2棟の工事総額
32,649,525円を修繕費として認めています。
このようなケースでは、顕著な増減事項の欄には、(2)で説明した
修繕の対象物件、工期、施工業者、資料の保存状況などのほか、
税理士自身がどのように判断したのかを、例えば次のように記載します。
「法人代表者が、施工業者である○○工務店の担当者○○から、
鉄筋コンクリート造の陸屋根式建物は、雨漏りがいったん発生すると
雨漏りの経路が分かりにくく完全に修理することは困難であり、
本件工事の工法が雨漏りを防ぐ一番安価な方法であると説明を受けた旨を
税理士が確認しています。また、本件の建物については実際に
過去幾度となく補修工事を行っていたにもかかわらず雨漏りが続いて
いたことを税理士が確認し、本件工事を行わない場合には漏水による
建物各部分への影響が不可避であり、結果的に当初予測した
建物使用可能期間を短縮させることになり、また、本件工事によって
新たに生じた屋根裏の空間には利用価値が認められないので、
その全額を修繕費と判断しました。」
この事例のように、数千万円の修繕費を決算書に計上しても、
その内容を記載する欄は決算書にも申告書にもないので、添付書面を
添付しない場合、その内容を解明するために調査となる可能性があります。
一方、法基通7−8−4などの形式基準に従うだけで、依頼者に不利な
選択を強いた場合には、依頼者から損害賠償を請求される可能性もあります。
修繕費か資本的支出かという判断は、耐用年数を延ばすなどの改良等
であるか否かを判断要素としていますが、実際にはその判断は困難な場合が
少なくありません。
しかし、税務の専門家としてその困難な事案に対してどのような
資料収集の努力をして、どのように判断したのかを記録に
残しておくことが重要です。
書面添付制度を積極的に利用して、顕著な増減事項の欄に、判断の根拠や
その内容を詳細かつ具体的に記載することにより、説明責任を果たす
とともに、税理士法第1条の使命が全うされるものと考えます。
【近畿税理士会 業務対策部提供】
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