個人事業主の養老保険は必要経費か?
※2017年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社InspireConsultingの久保憂希也です。
個人の確定申告が終わったばかりですが・・・
個人事業主に対する税務調査で否認対象になりやすい
「養老保険」の必要経費性について解説します。
個人事業主が加入している養老保険の場合、
従業員の福利厚生というよりは、事業主の利殖が
目的と考えられるケースが散見されます。
まず、個人事業主が加入する養老保険が必要経費になる
(2分の1は資産計上)「形式」基準は下記となります。
保険契約者:事業主
被保険者:従業員
保険料負担者:事業主
満期保険金受取人:事業主
死亡保険金受取人:従業員の遺族
という加入条件で、かつ「全従業員」が加入していることです。
保険の場合、通常は「普遍的加入」と呼ばれていますが、
税務上の考え方でいうと、先週解説した
「水平的公平性」が担保されている状態を指します。
一方で、上記の形式・外形的な要件を満たしていたとしても、
実質的な判断基準を満たしていなければ
税務調査で否認されるリスクを抱えています。
繰り返しますが、養老保険を福利厚生費として
必要経費に算入することができるのは、あくまでも
従業員に対する福利厚生が目的だからであって、
個人(事業主)の利殖が目的ではないことが明確な場合です。
【実質的な基準】
(1)各従業員の退職年齢を考慮した契約期間とされている、
または、退職までの期間において、順次保険契約を更新している
(その旨の規定もしくは各従業員との契約があればベスト)
(2)従業員が退職した場合には、該当する保険が解約されている
(3)事業主が受け取る満期保険金について、従業員の
退職金原資に充てている、もしくは退職金原資に充てることの
規程が存在する、またはその旨の契約が存在する
最近の判決でも、個人事業主(眼科医及び歯科医)が、
雇用する従業員を被保険者とする養老保険契約・
がん保険契約を締結し、その保険料の一部を福利厚生費として
必要経費に算入して申告しており、
納税者が負けた事案が存在します。
「従業員を被保険者とする養老保険契約の保険料」
(平28年4月20日 広島高裁 Z888−2037)
【要旨】
満期保険金等の受取人が従業員ではなく控訴人であること、
解約返戻金等は、 退職金規程に基づく支給予定額の
1.9倍以上となっていること、従業員退職後も
保険契約が継続していること等が認められ、
これらの事情は、控訴人において、保険契約が従業員の
福利厚生のためといえるだけの必要な整備をとっておらず、
かつ、現実にも、福利厚生のために利用していないことを
明らかにしているものといわざるをえない。したがって、
各保険契約が福利厚生目的とは認められない。
本件養老保険契約は、控訴人らが多額の解約返戻金等のある
保険契約を締結し、実質的に自己資金を留保しつつ、
その保険料を必要経費に算入することを企図したものと
認められるのであるから、死亡保険金の受取人を
従業員の家族としていることを考慮しても、
支払保険料全体が家事関連費に該当するというほかないし、
当該支払保険料の中で業務の遂行上必要な部分として
明らかに区分することができるとは認められない。
形式要件だけを満たしていても、被保険者となっている
従業員の年齢・契約期間・保険料の支払方法等から考えて、
さらに実態から考えた場合に、福利厚生目的でない
と判断される保険料は否認されるというわけです。
確定申告時には、(業務処理の)時間的な関係から
形式基準から判断して必要経費にしていたとして、
今から実態を見直す必要はあります。
この処理を機械的にしているケースは、
ぜひ、注意してください。
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