分掌変更と大株主であることの関係(その1)
※2017年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「分掌変更と大株主であることの関係(その1)」ですが、
東京地裁(平成20年6月27日)の判決を取り上げます。
なお、今回も3回シリーズでこのテーマを取り上げ、
3回目にまとめをしていきます。
この事例は
〇 役員全員が同居する家族のみで構成される小規模な同族会社
→ 本件事業年度における売上高は1,968万6,904円
〇 代表取締役(乙)が監査役になった(分掌変更後の代表取締役の父親)
〇 発行済株式の35%を所有する筆頭株主
という状況です。
確かに、法基通9−2−32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)には
下記とあります。
(2)取締役が監査役(〜その法人の株主等で令第71条第1項第5号
《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を
除く。)になったこと。
では、この前提で東京地裁はどのように判断したのでしょうか?
〇 乙を監査役に就任させたのは、家族以外の者を役員とした際における
事務処理の煩雑を避けるためのものであることが認められるところ、
原告会社のように役員全員が同居する家族のみで構成される小規模な
同族会社においては、監査役の業務が実際上重要視されておらず、
原告乙のように、現実には仕事をすることが困難な状況にある者
について上記のような扱いをすることは間々あることということができる。
〇 乙の外に新たに役員に就任するに足りるほど、原告会社の業務に
関与している者の存在はうかがわれないのであるから、乙が監査役に
就任したことをもって、乙に原告会社の経営上重要な地位又は権限が
残っていることの現れとみることはできない。
〇 乙は役員の分掌変更の前後を通じて原告会社の発行済株式の35%を
所有する筆頭株主ではあるものの、前記認定事実のとおり、原告会社の
発行済株式は、その全部を同居する家族がその出資割合に応じた
比率のまま所有していることなどに照らすと、原告会社において、
役員が経営上の方針等について、その株式の所有割合に応じた影響力
又は発言力を有しているとは認め難い。
〇 乙は原告会社において、役員としてはおろか、従業員としても
一切の業務を行っていない状態になったのであって、仮に、乙が
筆頭株主として原告会社に対して何らかの影響を与え得るとしても、
それは、飽くまで株主の立場からその議決権等を通じて間接的に
与え得るにすぎず、役員の立場に基づくものではないから、
株式会社における株主と役員の責任、地位及び権限等の違いに照らすと、
上記のような株式保有割合の状況は、乙が原告会社を実質的に
退職したと同様の事情にあると認めることの妨げとはならないと
いうべきである。
この判決で注目すべきは「筆頭株主として原告会社に対して何らかの
影響を与え得るとしても、それは、飽くまで株主の立場からその議決権等を
通じて間接的に与え得るにすぎず、役員の立場に基づくものではない」
という点です。
これは至極当然の理論ですが、実際の税務調査の現場では問題になり、
東京地裁に至って正当な判決が出たことに驚きを隠せません。
しかし、この判決後も同様の点が問題になった事例がありますので、
次回、次々回で解説していきます。
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