分掌変更と大株主であることの関係(その2)
※2017年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「分掌変更と大株主であることの関係(その2)」ですが、
長崎地裁(平成21年3月10日)の判決を取り上げます。
なお、前回に引き続いての2回目の内容となります(全3回)。
前回は「筆頭株主であっても分掌変更が成立する」と
判断された東京地裁の判決をご紹介しました。
しかし、この判決後も同様の点が問題になった事例があります。
それが今回の判決です。
まずは、問題になった丙の役職を時系列で記載します。
〇昭和53年ころ:丙は、代表者に就任する前の原告代表者との
婚姻を機に、組織変更前の原告に勤務
〇昭和56年5月17日:原告の常勤取締役に就任
〇平成8年7月:常勤取締役から非常勤取締役に(退職金の支給無し)
〇平成16年6月25日:取締役を退任して監査役に
そして、給与額の流れは下記となっていました。
〇昭和63年10月から平成2年11月まで 20万円
〇平成2年12月から平成3年6月まで 50万円
〇平成3年7月から平成4年1月まで 60万円
〇平成4年2月から平成5年2月まで 80万円
〇平成5年3月から平成6年7月まで 100万円
〇平成6年8月から平成8年6月まで 50万円
〇平成8年7月から平成16年6月まで 20万円
〇平成16年7月〜 20万円
ちなみに、丙は発行済株式総数の12%を所有している監査役なので、
法基通9−2−32に掲げる分掌変更が成立しない形式に該当します。
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法基通9−2−32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
(2)取締役が監査役(〜その法人の株主等で令第71条第1項第5号
《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を
除く。)になったこと。
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そして、乙の状況は下記となっていました。
〇平成16年6月25日の監査役就任以後、丙は、非常勤のため、
原告に出社していないが、毎月、税理士事務所から報告を受け、
決算期に財務諸表を点検し、株主総会に監査報告書を提出している。
〇平成16年終わりころから、監査役としての任務のほか
原告の業務にほとんど関与しなくなった。
〇丙は、丙と原告代表者との間の三男が障害を持っており、
同人が自立できるようにするため、飲食業を営むことを計画し、
監査役に就任後、そのための会社設立の準備を行い、
平成17年3月、有限会社を設立してその代表取締役に就任した。
〇同年7月13日には同会社がインド料理店を開店させ、
丙は、同店に【毎日】出勤して、その経理や14名の従業員の
管理に当たっている。
〇非常勤取締役だった時代と監査役就任後の給与額が同額である。
この状況の下、税務調査で問題になり、長崎地裁に至った訳ですが、
下記と判断されました。
〇丙は、平成16年6月期を含む本件各事業年度を通じて原告の
発行済株式総数のうち12%の株式を有しており、
使用人兼務役員とされない役員に該当する。
〇そのような者が取締役から監査役になったときは、取締役の
退任に伴い支給された給与を退職給与として取り扱うことが
できる場合から除外されている。
〇しかしながら、本件通達が退職給与として支給した給与を、
法人税法上の退職給与として取り扱うことができる場合として
掲げている事実は、その文言からも明らかなとおり、例示である。
〇結局は、役員としての地位又は職務の内容が激変し、
実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、
その際に支給された給与を退職給与として損金に算入することが
認められるべきである。
〇法人税法施行令71条1項4号の要件のすべてを満たしている者
については例外なく監査役の本来の機能が期待できないと解すことは
できないから、被告の上記主張は採用することができない。
〇平成16年6月25日の取締役の退任と監査役の就任の前後において
丙の報酬額に変化はなく、報酬額の変化は当該地位や職務の内容が
激変した場合の一つの徴表ということができるとしても、
それぞれの報酬額は月20万円であって、その金額からして、
監査役の報酬を更に低額にすることは困難である。
〇非常勤取締役としての原告に対する貢献と、非常勤監査役としての
原告に対する貢献が同額の報酬をもって評価されることはあり得る。
〇丙の報酬額に変化がないことをもって、直ちに、原告における
丙の地位又は職務の内容が激変していないということはできない。
結果として、納税者の主張が認められた訳ですが、
前回の東京地裁、今回の長崎地裁の判決があるにも関わらず、
法基通9−2−32に「その法人の株主等で令第71条第1項第5号
《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを
満たしている者を除く。」との記述が残っていることに驚きを隠せません。
もちろん、株式の所有状況だけではなく、
その他の事実認定の問題もありますが、「相当数の株主であること」と
「分掌変更が成立しているか?」とは別次元の問題です。
ただし、過去にこのような事例があるということは、
今後も同じ点を指摘される可能性がある訳です。
法基通も変わっていませんし・・・。
しかし、この点に関する反論は簡単なので、
皆さんが立ち会う税務調査で問題になったならば、
前回と今回の事例を提示し、「適正に」反論してください。
そもそも、指摘自体が間違っている訳ですから・・・。
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