2016.07.06

分掌変更と役員退職給与

※2015年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

おはようございます。税理士の見田村元宣です。

さて、今回は「分掌変更と役員退職給与」ですが、

平成27年2月26日の東京地裁判決(確定、納税者勝訴)を取り上げます。

まず、この事案は国税不服審判所のホームページで公開されていますが、

請求人の主張は認められませんでした。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/86/18/index.html

では、この事案の概要をまとめてみましょう。

○事業年度は9月1日~8月31日

○原告の創業者である乙(以下「本件役員」)は平成19年8月31日に

 代表取締役を辞任して非常勤取締役となった

○役員報酬は月額87万円から40万円に減額

○分掌変更後は週に1~2度、時間も不定期で出社するのみ

○分掌変更後の代表取締役としての業務は、新代表取締役が行っている

○本件役員に対する退職慰労金は2億5000万円

○平成19年8月31日に7,500万円を支払った

→平成19年8月期の損金

○平成20年8月29日に1億2,500万円を支払った(資金繰りの都合)

→平成20年8月期の損金

○後者の1億2,500万円(以下、「第二金員」)が否認された

非常に面白い事案なので、裁決文の全文をお読み頂いた上で、下記を

読み進めて頂くといいかと思いますが、東京地裁は下記と判断しました。

なお、非常に長いので、結論的な部分のみを抜粋しますが、全文をお読みに

なることをお奨めします。

○本件役員は、本件分掌変更の前後を通じて原告の取締役の地位にはある

 ものの、本件分掌変更により、原告の代表権を喪失し、非常勤となって、

 その役員報酬額も半額以下とされたのであり、本件分掌変更によって、

 原告を一旦退職したのと同視できる状況にあったということができる。

○原告は、①本件株主総会において、本件役員に対し、本件分掌変更に伴う

 退職慰労金(おおむね2億円ないし3億円を目安とする。)を支給する

 こととして、その支給金額等の詳細は取締役会が決定することを決議し、

 ②本件総会決議を受けた本件取締役会において、本件役員に対する退職

 慰労金を2億5000万円とし、これを分割支給すること等を決議して、

 ③本件役員に対し、本件退職慰労金の一部として、平成19年8月31日

 に7500万円(本件第一金員)を、平成20年8月29日に1億

 2500万円(本件第二金員)を、それぞれ支給したのであり、これらの

 事実経緯に鑑みれば、本件第二金員は退職基因要件を満たしているという

 べきである。

○原告が、本件役員に対して総額2億5000万円の本件退職慰労金を支給

 することを前提として、その一部として本件各金員を支給したことは明らか

 であり、原告において、本件退職慰労金を支給する旨の意思決定(機関

 決定)がされたものと考えるのが合理的である。

○原告は、本件総会決議及び本件取締役会決議により、本件退職慰労金を

 本件役員に支給すること等を決議したものと認めることができ、同認定を

 覆すに足りる事実ないし証拠はない。

○原告は、平成19年8月当時において、本件株主総会及び本件取締役会に

 係る議事録を作成していないが、原告が同族会社であり、原則として

 株主総会等の議事録を作成していなかったことに鑑みれば、開催当時に

 作成した議事録が存在しないからといって、本件株主総会及び本件取締役会

 が開催されなかったということはできない(なお、原告の株主が本件役員

 及びその親族の僅か4人であることに照らせば、本件役員が親族との

 食事会における話合いの結果をもって、原告の株主総会としての決議と

 したことが特段不自然、不合理であるということはできず、株主全員に

 よる決議であることに照らせば、その有効性にも特段問題はない。)。

○甲(見田村注:現代表取締役、本件役員の子)は、原告代表者尋問において、

 本件計算書(見田村注:役員退職給与の計算書)と本件議事録添付計算書

 の関係について、それぞれに原本が存在し、本件議事録添付計算書を再度

 作成し直したものが本件計算書であるなどと供述していたにもかかわらず、

 尋問終了後、陳述書を提出して、本件計算書の写しを本件担当係官に提出

 した後、本件役員が、本件計算書の一部を書き直したものが本件議事録

 添付計算書であるとして、上記供述内容を訂正している。

○しかしながら、本件計算書及び本件議事録添付計算書は、本件役員の署名

 押印部分が同一であることに鑑みても、その一方が他方の一部を書き直した

 ものであることは明らかであり、両者の相違点は、「23年8月まで」と

「23年/8月まで」の違いにすぎない。

○甲は、尋問における供述内容を訂正した理由について、①本件役員が本件

 計算書の署名部分をボールペンで記載したことを明確に記憶していたため、

 それ以外の書込み部分もボールペンで書かれたものであり、原本が2つある

 と思い込んでしまった、②裁判所の指示を受けて、尋問終了後に原本を

 確認したところ、本件議事録添付計算書の原本は見付かったが、本件計算書

 の原本は見当たらず、本件議事録添付計算書のうち「23年/8月まで」

 との部分は鉛筆によるメモ書きであることが判明したなどとしており、

 その説明内容は一応合理的なものである。

○そうである以上、甲が本件計算書の作成過程に係る供述内容の一部を訂正

 したからといって、本件計算書それ自体を信用することができないという

 ことはできず、原告が本件計算書に基づき本件取締役会決議を行った旨の

 前記認定を覆すべき事情には当たらない。

分掌変更による役員退職給与は税務調査で問題になることも多く、これが

否認された場合は非常に大きな納税となりますので、税理士としては、

注意しておくことが必要です。

この事案は全文をお読み頂くと、裁判に至った段階で状況が変わった部分等、

他の論点もあり、非常に面白いですので、是非、今後の実務の参考として

頂ければと思います。

 

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