役員貸付と言ってみる
※2015年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
春の税務調査も大詰めを迎える時期です。
この時期の質問・相談で多いのが「役員賞与」。
雑収入が社長の個人口座に入金されていたり、
事業資金を捻出するために、チケットショップで
換金していたり・・・もちろん良いことではないのですが、
これらが役員賞与にされると厳しい側面もあります。
このような場合、とりあえず調査官に
「じゃあ、貸付金で処理しますよ。
もちろん社長には返済させますから」
と言ってみるのが有効な手です。
調査官としては当然、役員賞与としたいわけですが、
考えてみれば、役員賞与なのか貸付計上なのか、
言われた方の調査官も明確な区分を言えなければ
「貸付でいいです」としか答えられません。
貸付処理で主張すると、役員賞与で譲らない調査官もいますが、
このような場合でも、金銭消費貸借契約書を作ることを前提に、
認定利息分だけは増差で譲ってあげるのも有効な交渉手段です。
貸付処理さえ通れば、重加算税も課されないですし、
認定利息だけなら増差税額もかなり少額になります。
この点をもう少し深堀りしてみましょう。
判決等を調べると、役員賞与になるかならないかは
「資金使途」によって判断されることが多いようです。
役員が、法人に帰属する売上等を個人口座に入金させ、
それを個人的に費消していると役員賞与とするものです。
しかし、現実の税務調査では、資金使途が明確にならない
ことも多いのが事実です。
では、資金使途が明確でない場合、どうなるのでしょうか?
多数の判決を見てみると、実は役員賞与について否定的な見解と、
肯定的な見解の2つに大きく分かれています。
納税者有利である「役員賞与に否定的な」判決を挙げてみましょう。
東京地裁昭和52年3月24日(税資91号416頁)は、
売上除外の簿外預金から引き出された金銭が、
何に使われたのかわからず、税務調査で役員賞与とされた事案
ですが、役員が明確に、この金銭を取得した事実、
または、取得を推認するに足る事実についての証拠も
ないことから、処分取消(納税者勝訴)となりました。
この裁判で興味深い論点は、判決の中で、
「(会社役員が)簿外預金を自己の管理下において
自己の意思により処分できる場合においても同様である」
としている点です。
つまり、簿外預金のキャッシュカードを持っているなど、
預金を自由に引出し等ができるというだけでは、
役員賞与にはならない、と判示しているわけです。
この判決において、認定賞与の基準は明確に、
資金使途におかれているということです。
同じような判決に、東京高裁昭和56年6月19日判決
(税資117号675頁)があります。
この判決では、簿外預金から引出した金銭を
認定賞与とするためには、税務署がこれを
主張・立証する必要があるところ、結局調査では使途が
明らかになっていないとして、納税者が勝っています。
この高裁判決の上告審(最高裁昭和57年7月1日
第一小法廷判決 税資127号1頁)においても、
同内容の判決が出されているのも注目すべき点です。
貸付と主張して、なかなか調査官が納得しない場合の根拠として
有効ですので、ぜひこれらの判決は知っておいてください。
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