役員退職給与に関する誤解
※2016年12月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「役員退職給与に関する誤解」ですが、
札幌地裁(昭和58年5月27日)を取り上げます。
上記判決は「1年当たり平均額法」が採用された事例ですが、
本メルマガではこれを税理士向けに解説していきます。
では、前提条件です。
〇 支給された役員退職給与は1億2,000万円
〇 本件類似法人における勤続年数1年当りの平均退職給与の額は
288万3,000円。
〇 退職した代表取締役Aの勤続年数は22年
〇 288万3,000円×22年=6,342万6,000円
〇 国税はAの勤続年数が本件類似法人における当該役員の勤続年数よりも
若干長いことなどの功績を加味して、その約10パーセントを加算し、
役員退職給与の適正額を7,000万円と認定。
結果としては、納税者敗訴ですが、裁判所は下記と判示しました。
〇 原告は、Aが原告の代表取締役として長期間従業員と差のない低額な
報酬を受けながら原告の事業規模の拡大に努めてきたことなどの
特別の功労を考慮すれば、原告がAに対して支給することとした
退職給与の額1億2,000万円は相当な金額というべきである旨主張する。
〇 しかし、原告の事業規模に対するAの功労は、窮極的には、
その事業規模(売上金額、総資産価額、純資産価額、所得金額)の数値に
表現されるものであるから、この点については原告の比較の対象と
なるべき法人を選定する過程において考慮されている。
〇 また、別表(見田村注:下記)記載のとおり、本件類似法人の事業規模の
原告に対する比率の平均値は原告を上回る比率を示しているから、
本件における比較の対象となるべき法人の選定は、原告にとって有利な
選定となつている。
〇 更に、被告はA作の功績を加味して1年当り平均額法によつて得られた
金額にその約10パーセントを加算して退職給与の額を認定している。
〇 以上の点を考え合わせると、Aの原告に対する功労は、被告が行った
1年当り平均額法による相当な退職給与の額の算出過程において
十分に反映されている。
これに関して、ある方から
「見田村先生は以前に『功労金加算は危険』と話されていましたが、
上記で功労金加算しているので、功労金加算は認められる行為では?」
というご質問を受けました。
ただし、過去の裁判例において、功労金加算は「極めて特殊な事情」が
ある場合にのみ認められる行為とされています。
そして、更正段階では国税側の配慮から約10%の功労加算をしていますが、
裁判所はこれを容認はしているものの、「原告の事業規模に対するAの功労は、窮極的には、
その事業規模(売上金額、総資産価額、純資産価額、所得金額)の数値に
表現されるものであるから、この点については原告の比較の対象となるべき
法人を選定する過程において考慮されている。」と判断しています。
つまり、功労は類似法人を抽出した段階で考慮済みの考え方ということです。
結果として、功労金加算は功績倍率法であれ、1年当たり平均額法であれ、
しない方が無難であるというのが正しい考え方です。
しかし、役員退職慰労金規程には「30%の範囲での功労金加算」が
記載されている事例も少なくありません。
しかし、これは非常にリスクのある行為なので、
慎重な判断が求められる部分なのです。
別 表 (単位 千円)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
| | 類 似 法 人 |
| 法 人 名 |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| 原告法人
| | A 社 | B 社 | C 社 | 平 均 |
|−−−−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−
|業 種|一般機械器|金属製品製| 同 左 |3社平均 |金属製品製造
| |具製造 |造 | | |
|−−−−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−
| |売上金額 |114.9|104.3| 87.5|102.2| 100.0
| |総資産価額 |151.4|129.2| 72.6|117.7| 100.0
|注|純資産価額 |145.0| 76.0| 66.2| 95.7| 100.0
| |所得金額 |172.5|122.8| 90.9|128.7| 100.0
| |対比率合計 |583.8|432.3|317.2|444.4| 400.0
|−−−−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−
|退 職 事 情 |健 康 上| 同 左 | 同 左 | 同 左 | 同 左
|退 職 時 期 | 50.1| 49.9| 50.2| | 49.3
|勤 続 年 数 | 20| 19| 20|(19.7) 22
|最終報酬月額 | 550| 900| 440| 630| 300
|退職給与の額 |80000|59850|30000|56616|120000
|1年当り退職給与| 4000| 3150| 1500| 2883| 5455
|功 績 倍 率 | 7.3| 3.5| 3.4| 4.7| 18.2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(注)退職時を含む3年間の原告を100とした事業規模の対比
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