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2023.05.12

所得の帰属:従業員の不正による所得

※2022年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

水曜の本メルマガでは、前々回から
税務調査で問題になりやすい「所得の帰属」を
取り上げていますが、今回は従業員が行った
不正所得が法人に帰属するのかについて解説します。

先週水曜の本メルマガでは、従業員名義で行った
本業(もしくはそれに準じる事業)から得られる
所得であり、経営者もそれらを了知している
ケースについて解説しました。

今回はマスコミ記事などでも取り上げられる、
税務調査で従業員不正が発覚するようなケースです。

ここでは、有名な公開裁決事例を取り上げます。

「請求人の従業員が貯蔵品を売却したことによる
収益は、取引を行った従業員の地位・権限などを
総合考慮すれば、請求人の売上げとはいえない
ことから、請求人には帰属しないとした事例」
(平成21年9月9日公開裁決事例)

この裁決事例の前提事実はわりとシンプルで、
下記のようなものです。

・印刷や製本を請負う法人

・印刷で余った印刷用紙(余剰紙)を保管していた
(余剰紙の在庫数量は把握していない)

・他部署の課長が余剰紙を他社に売却し、
その売却代金を現金で受領していた

この裁決事例の結論は、法人の所得ではなく
不正を行った従業員個人の所得と認定したのですが、
その判断基準は下記の4つになります
(裁決の判断内容を簡易にまとめたものです)。

●取引を行った従業員の地位・権限

不正した従業員は、法人の経営に従事する者
ではなく(一部署の課長)、かつ余剰紙の
管理を行う部署ではないので、本人の
業務範囲外であり、余剰紙を自己の判断で
売却する権限を有していなかった

●その取引の態様

不正取引(余剰紙の売却)は勤務先の
法人名ではなく、実在しない法人の名義

●法人の事業内容

法人が過去に、印刷用紙をそのまま販売した
実績はなく、余剰紙は別の印刷作業で発生する
損紙の穴埋めなど消耗材として使用していた

●取引の相手方の認識

余剰紙の買取りを行っていた相手方は、
「どこかの紙屋さん」が在庫処分する紙を
現金取引するものと認識し、この取引が
法人との取引であるとは認識していなかった

この裁決事例は判断基準が非常に明確で、
「不正を行った者の権限」「取引の名義」
「法人の事業範囲か」「相手方の認識」と
なっていますので、税務調査で従業員不正が
発覚した場合は、どの要素・判断基準を
満たしているかで反論根拠にすることができます。

さて、今回取り上げた裁決事例は
「法人の事業範囲ではないことを現場の
従業員が行って得た所得は従業員個人に帰属する
(法人に帰属しない)」となるわけですが、
一方で、現実的には法人の事業範囲内、もしくは
事業に付随する所得で判断に迷う、という
ケースの方が多いことでしょう。

来週水曜の本メルマガでは、直近で受けた
税務調査の質問・相談で、所得の帰属の
判断に迷う実例を取り上げます。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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