所得の帰属:従業員の不正による所得
※2022年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
水曜の本メルマガでは、前々回から
税務調査で問題になりやすい「所得の帰属」を
取り上げていますが、今回は従業員が行った
不正所得が法人に帰属するのかについて解説します。
先週水曜の本メルマガでは、従業員名義で行った
本業(もしくはそれに準じる事業)から得られる
所得であり、経営者もそれらを了知している
ケースについて解説しました。
今回はマスコミ記事などでも取り上げられる、
税務調査で従業員不正が発覚するようなケースです。
ここでは、有名な公開裁決事例を取り上げます。
この裁決事例の前提事実はわりとシンプルで、
下記のようなものです。
・印刷や製本を請負う法人
・印刷で余った印刷用紙(余剰紙)を保管していた
(余剰紙の在庫数量は把握していない)
・他部署の課長が余剰紙を他社に売却し、
その売却代金を現金で受領していた
この裁決事例の結論は、法人の所得ではなく
不正を行った従業員個人の所得と認定したのですが、
その判断基準は下記の4つになります
(裁決の判断内容を簡易にまとめたものです)。
●取引を行った従業員の地位・権限
不正した従業員は、法人の経営に従事する者
ではなく(一部署の課長)、かつ余剰紙の
管理を行う部署ではないので、本人の
業務範囲外であり、余剰紙を自己の判断で
売却する権限を有していなかった
●その取引の態様
不正取引(余剰紙の売却)は勤務先の
法人名ではなく、実在しない法人の名義
●法人の事業内容
法人が過去に、印刷用紙をそのまま販売した
実績はなく、余剰紙は別の印刷作業で発生する
損紙の穴埋めなど消耗材として使用していた
●取引の相手方の認識
余剰紙の買取りを行っていた相手方は、
「どこかの紙屋さん」が在庫処分する紙を
現金取引するものと認識し、この取引が
法人との取引であるとは認識していなかった
この裁決事例は判断基準が非常に明確で、
「不正を行った者の権限」「取引の名義」
「法人の事業範囲か」「相手方の認識」と
なっていますので、税務調査で従業員不正が
発覚した場合は、どの要素・判断基準を
満たしているかで反論根拠にすることができます。
さて、今回取り上げた裁決事例は
「法人の事業範囲ではないことを現場の
従業員が行って得た所得は従業員個人に帰属する
(法人に帰属しない)」となるわけですが、
一方で、現実的には法人の事業範囲内、もしくは
事業に付随する所得で判断に迷う、という
ケースの方が多いことでしょう。
来週水曜の本メルマガでは、直近で受けた
税務調査の質問・相談で、所得の帰属の
判断に迷う実例を取り上げます。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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