時価と相続税評価との乖離に関する複眼的視点
※2022年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下でございます。
今回のテーマは
「時価と相続税評価との乖離に関する複眼的視点」です。
令和4年4月19日
「路線価に基づく相続財産の評価は不適切である」
として、最高裁への上告が棄却され
国税側の勝訴が確定したことは記憶に新しいかと思います。
(1)収益不動産購入にあたり被相続人による
金融機関からの借入が「節税目的」であったこと
(2)相続税申告額が0円であったこと
理由としては、上記2点になるかと思いますが
今回の最高裁では、「総則6項」による
「著しく不適当」の基準は明確になりませんでした。
多くの税理士が興味を持って見つめた
この判断基準ですが、「税務だけの視点」で
本当に大丈夫なのでしょうか。
総則6項が具体的に語られる事案では
民法的な視点が必要になると考えます。
例えば、以下のケースを想定してみます。
被相続人:父
推定相続人:長男、長女
被相続人の財産:
(1)現金5億円
(2)自宅及びその敷地2億円
(うち敷地(300平方メートル)は1.5億円)
(時価=相続税評価額)
家なき子に該当:長男のみ
相続税総額:約1.9億円
遺言:有(全て長男へ相続させる)
不動産業者の提案により現金5億円を全て
収益不動産に組み替えたとします。
収益不動産の評価額:
・相続税評価額1億円
・相続時の時価5億円のまま
税務の視点では
相続税評価額:合計1.8億円
・収益不動産1億円
・自宅0.5億円
・自宅敷地0.3億円(=1.5億円×20%)
相続税総額:2,740万円
節税額:約1.6億円
税務視点で総則6項だけを考えれば、
節税の有無のみを検討することになります。
これに対して民法の視点を組み入れると
長女の心情を検討する必要があります。
相続人である長女の立場からは
法定相続分:2分の1
遺留分:4分の1
このようになります。
次に、そのベースとなる相続財産の
評価額はいくらで考えればいいのでしょうか。
民法における遺留分の対象財産の
評価額は相続発生時における
「時価」となります。
そのため、具体的な遺留分は
以下のとおりとなります。
時価:合計7億円
・収益不動産5億円
・自宅0.5億円
・自宅敷地1.5億円
遺留分:
7億円×1/4=1.75億円
民法1046条第1項により
遺留分は金銭債権化されていますので
長男は資金を確保する必要があります。
沿う場合、収益不動産を
即時売却する必要に迫れます。
仮に、その場合
総則6項が発動するリスクが
各段に上がってしまいます。
時価と相続税評価額の乖離に
関する論点は税理士視点からは
「総則6項」でのみ語られます。
しかし、個人の権利意識が強くなっている
昨今においては、民法における争いが
隠れているという視点が
今後は必要になると考えます。
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