更正があるべきことの予知について(その3)
※2018年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「更正があるべきことの予知について(その3)」ですが、
平成24年1月24日の裁決です。
2週に渡って、このテーマを取り上げてきましたが、
一旦、今回で最終回とします。
2回に渡って解説したとおり、現行税制においても、
重加算税の賦課の可否は「更正があるべきことの予知」の有無が
基準の1つとなります。
本事例は過少申告加算税について争われた事例ですが、
「調査があったことにより更正があるべきことを予知して
されたものでない」ことの判断は、調査の内容・進捗状況、
それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と
調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して行うべき」と
示された事例です。
具体的には、国外財産の運用による雑所得の申告漏れに関する事案です。
まずは、時系列で整理してみましょう。
〇平成21年9月:所得税の税務調査に着手
〇平成21年11月5日:調査官が請求人及び関与税理士と面接し、
請求人に対し、「国内」における株式等に係る譲渡所得等の
申告漏れを指摘した。
〇平成21年11月6日:D国○○庁に対し、租税条約に規定する
情報交換制度に基づく個別的情報提供の要請をした。
〇平成21年12月4日:上記の国内における株式等に係る
譲渡所得等の申告漏れについて、平成18年分
及び平成19年分の修正申告書(「当初修正申告書」)を提出。
〇請求人は、D国○○庁から、国税庁からの要請に対し回答する旨等が
英文で記載された平成22年3月29日付の
「○○○○」と題する通知文書を受け取った。
〇平成22年4月28日:請求人は、請求人が国外に所有する資金の
運用に係る雑所得(「本件国外所得」)の申告漏れがあったとして、
平成19年分及び平成20年分の各修正申告をした(「本件各修正申告」)。
この前提の下、国税不服審判所は下記と判断しました。
〇調査の内容・進捗状況
平成21年11月5日に、調査担当職員が請求人及び請求人の家族による
国外送金の事実を指摘したのであるから、調査担当職員は、
同日時点で既に請求人が国外に所有する資金の端緒を
把握していたといえる。また、上記(2)ハからホまでによれば、
調査担当職員は、同日に情報交換制度の利用について請求人に対して説明し、
同月6日頃に情報交換制度に基づいて請求人名義の
国外の預金口座について情報提供を要請し、
同月9日頃に本件関与税理士に対して請求人が
国外に所有する資金に係る運用状況の確認を要請したのであるから、
同月5日の面接以降、請求人が国外に所有する資金の動きについて、
預金口座に関する情報収集や関与税理士への確認要請という具体的な調査が進み、
同日の面接時よりも請求人の国外における所得について
更正される可能性が高まった状態にあったといえる。さらに、
上記(2)リのとおり、請求人が国外に所有する資金に関する資料が
D国○○庁から原処分庁に到着したのが平成22年7月であり、
上記1(4)ホ及びトによれば、平成21年12月4日時点で
当初修正申告書を提出してはいても、
株式等の譲渡所得等に関する是正が行われたにすぎず、
当初修正申告書の提出によって請求人に対する一切の調査を
終了したことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はないから、
同日時点で請求人の所得税の調査が終了したとはいえないのであって、
請求人の国外における所得に関する調査は本件各修正申告書が
提出された平成22年4月28日時点で継続中であったということができる。
〇調査の内容・進捗状況に関する請求人の認識
・請求人は、平成21年11月5日に、調査担当職員に対して、
国外への送金に関し、情報交換制度の利用を申し出ていることからすると、
同制度が利用され、請求人が国外に所有する資金に関する調査が
以後も進行するであろうと認識していたということができる。
・請求人は、調査担当職員から確認依頼を受けた本件関与税理士から
国外に所有する資金の運用益について調査を依頼されているのであるから、
原処分庁の調査が進展中である旨認識していたと推認することができる。
・これらの認識を前提にすると、本件通知文書が英文であり、
原処分庁からの連絡ではないものの、請求人は、本件通知文書を
受け取ったことにより、本件通知文書が情報交換制度に関する書面であり、
同制度を利用して国外に所有する資金に関する具体的な調査が
進展中であると認識したということができる。
〇本件各修正申告と調査の内容との関連性
・本件各修正申告は、本件国外所得の申告漏れの是正を内容とするもの
であるのに対し、進行していた調査の内容は請求人が国外に所有する
資金に関する事実であって、ともに請求人が国外に所有する資金による
所得に関するものであるということができる。
・仮に、結果的に原処分庁がD国○○庁から提供された情報によっても
本件各修正申告における本件国外所得の金額を直接把握することが
できなかったとしても、請求人が国外において所有する資金による
所得という点で共通していることに変わりはなく、これを理由に調査と
関係なく自発的に本件各修正申告をしたとまでいうことはできない。
〇 本件各修正申告に至る経緯
・請求人は、平成21年11月9日以降、本件関与税理士から
請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金の運用益について
調査するよう依頼を受け、平成22年4月18日頃までに
同資金の残高に関するメモを本件関与税理士に渡し、
同月28日に同メモに基づく本件各修正申告をしているのであるから、
平成21年11月9日から平成22年4月18日頃までの間に
本件国外所得について修正申告する旨決意したと推認することが
できるにとどまり、その決意の具体的時期について認めるに足りる
証拠はない。
・請求人が本件各修正申告を決意する原因となった本件関与税理士による
調査依頼は、調査担当職員からの確認要請を受けたことを原因とするもの
であるから、請求人の決意と請求人が国外に所有する資金に関する調査
との関連性が認められる。
ということから、請求人の主張は認められなかったのです。
前回のメルマガで税務調査の途中における修正申告につき、
「更正のあるべきことの予知」について争われた事例を解説しましたが、
これは「調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、
修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を
総合考慮」して決まるものなのです。
このあたりの知識を整理しておいて頂ければと思います。
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