書面添付で実地調査の確率はどの程度下がるのか?
※2021年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
6月下旬に入り、春から着手されていた調査事案の
ほとんどは結了した時期かと思います。
今回のメルマガでは、私がよく質問を受ける
「書面添付をすることで実地調査の確率はどの程度
下がるのか?」について実数を用いて解説します。
なお今回の内容は、私が一昨年開催した
「税務調査対策研究会(基礎編)」の中で質問を受け、
第5回で取り上げたものですが、算出する確率は
現在もほぼ変わっていないはずです。
まず、法人申告数と実地調査件数から、
法人における(全国の)実地調査率を算出します。
●法人税の申告件数(全国):2,896千件
「平成29事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」
●法人税の実地調査の件数(全国):98千件
「平成29事務年度 法人税等の調査事績の概要」
⇒
法人の実地調査率:98千件÷2,896千件=約3.4%
次に、法人の書面添付件数と意見聴取件数、
さらには調査省略件数などから各確率を算出します。
これらの数値に関しては、国税が管轄の税理士会を
通して公表しているものになりますが、
今回は東京国税局管轄の数値を用いて計算します。
※「平成29事務年度 書面添付法人の意見聴取等状況」
(東京都における所管税務署のみ)によるもの
A 法人税の申告件数:589,660件
B 税理士関与件数:525,160件
C 書面添付件数:30,399件
D 書面添付割合:C÷B=約5.8%
E 意見聴取件数:1,046件
F 意見聴取割合:E÷C=約3.4%
この段階で理解できることは、
【書面添付をしない場合の実地調査率
≒書面添付をした場合の意見聴取割合】
ということです。上記では「3.4%」で(たまたま)
一致していますが、この率はほぼ同じになるはずです。
なぜなら国税側としては(書面添付なしの)実地調査率と
意見聴取の実施割合がほぼ同じになるように、
意見聴取の件数にノルマを課しているからです。
これは、書面添付をした方が得・損がないように
配慮した施策(ノルマ)でしょう。
続けて、意見聴取から調査省略になる
割合も算出しておきましょう。
G 調査省略件数:789件
H 調査省略割合:G÷E=75.4%
つまり、意見聴取されてから実地調査に移行する
割合は4件に1件にしかありません
全体を総括すると、下記になります。
●100法人に書面添付しないで申告する
⇒
年間3~4法人に実地調査が入る
●100法人に書面添付をして申告する
⇒
年間3~4法人に意見聴取が実施される
⇒
実地調査になるのは1法人
結論は非常に単純で、意見聴取される確率は
実地調査と同じであっても、実地調査の確率は
4分の1になるというものです。
公表されている数値からでも、これだけ
精緻な確率論を導き出すことが可能です。
税務調査を喜ぶ顧問先はいないはずなので、
税理士事務所として書面添付を有効活用するかは
皆さん次第ということです。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。