最新の公開裁決事例から学ぶ重加算税の賦課基準
※2023年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
コロナ禍の反動で、直近の税務調査の件数が急増、
この1~2ヵ月は税務調査の質問・相談も増えましたが、
相も変わらず「重加算税」に関する質問・相談が多いです。
さて、国税不服審判所は3ヵ月ごとに「公開裁決事例」
(裁決事例集)をサイトに公開していますが、
https://www.kfs.go.jp/service/JP/index.html
令和4年分として(本日までに)公開された13件の
裁決事例のうち、5件が重加算税で争っており、
うち全件において納税者が勝っている(=重加算税が
取消されている)という状況です。
不服申立てされ、その総数のうち何件が不服審判所で
重加算税が争われたのか、総母数がわからないので、
全体としての勝率は不明ですが・・・令和3年分に遡っても
重加算税で争った裁決事例8件のうち、これまた
全件で納税者が勝っているのは異常といえるでしょう
(税務調査における重加算税の賦課決定処分の
適正性が相当に疑われるレベル)。
上記のとおり、あくまでも公開裁決事例に着目した結果であり、
不服申立ての総件数が不明で、かつ全ての裁決事例ではない
(公開裁決事例以外である非公開裁決事例の方が多い)
わけですが、ここで公開裁決事例に着目する理由は、
公開裁決事例には【先例性】があるからです。
国税不服審判所のサイトにはこのように記載があります。
https://www.kfs.go.jp/service/index.html
「国税不服審判所では、(略)税務行政の適正な運営の
確保に資するとの観点から、先例となるような裁決については、
「裁決事例集(冊子)」を作成し公表しています。」
また、裁決事例を公開するかどうかの基準として、
事務運営指針では下記を挙げています。
「裁決結果の公表基準について(事務運営指針)」
(平成12年9月8日 国税不服審判所長)
1 裁決結果の公表基準
(1)納税者の適正な申告及び納税のために有用であり、
かつ、先例性があるもの
(2)適正な課税・徴収の実務に資するものであり、
かつ、先例性があるもの
(3)その他、納税者の正当な権利利益の救済等の観点から
国税不服審判所長が必要と認めたもの
(注)例えば、次に掲げるものは、上記の基準に該当する。
○法令又は通達の解釈が他の事案の処理上参考となるもの
○事実認定が他の事案の処理上参考となるもの
○類似の事案が多く、争点についての判断が
他の事案の処理上参考となるもの
○取消事案等で納税者の主張が認められた事案で先例となるもの
さらに、内部通達では上記事務運営指針の解釈について
下記のように明示しています。
「裁決結果の公表基準の取扱いについて(指示)」
(平成23年3月4日 国税不服審判所長)
「(前略)取消事案については、「納税者が申告・納税や
不服申立てを行う上で有用であり、かつ、原処分庁を拘束するため、
これを広く周知することにより、その後の税務行政の適正な運営の
確保にも資するもの」と考えられることから、原則として、上記
「(3)その他、納税者の正当な権利利益の救済等の観点から
国税不服審判所長が必要と認めたもの」に
該当するものとして取り扱うこととする。」
引用が長くなったので、全体を整理するとこうなります。
裁決のうち不服審判所の基準で公開する裁決事例がある
⇒
これは「先例性」があることが基準
(法令解釈や事実認定などが以後の参考になる事例)
⇒
特に、取消(納税者が勝った)事案については公開されやすい
(以後の税務判断や税務調査で基準になるため)
⇒
昨今の重加算税事案においては、そのほとんどが
「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」
かどうかが賦課基準になっている(が、税務調査では
その判断基準が適用されずに賦課決定されている)
重加算税が論点になっている税務調査において、
調査官が用いる根拠、または仮装・隠ぺいの事実認定が
曖昧な場合、直近の公開裁決事例から
主張・反論するのは非常に有効な根拠になりますので、
ぜひ参考にしてください。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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