最終報酬月額の増額と役員退職給与の関係
※2019年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「最終報酬月額の増額と役員退職給与の関係」ですが、
平成20年12月1日の大分地裁判決をご紹介します。
まず、この事例の前提条件を書きます。
〇問題になった事業年度は平成15年3月期
〇平成12年1月:肺がんが判明し、手術(1〜3月は入院)
〇平成14年3月頃:大腸がんが判明
〇平成14年5月下旬:いったん退院
〇平成14年6月上旬:再入院
〇平成14年8月16日:死亡
この流れの下、役員報酬の推移は下記となっていました。
〇平成13年3月まで:月額130万円
〇平成13年4月以降:月額150万円
〇平成14年4月以降:月額200万円
→平成14年8月16日:死亡
そして、法人は役員退職給与を
200万円×16年×3.5=1億1,200万円
として払い出した訳です。
しかし、国税はこの増額を問題視した訳です。
国税の主張は下記の金額です。
130万円×14年×3.5※=6,370万円
※平均功績倍率:3.387
そして、大分地裁は下記と判断したのです。
〇平成12年1月の入院以降の乙の職務内容は従前と比べて減少していたと
認められるから、その間業績が上昇する等の特段の事情がない限り、
入院以降に役員報酬額が上昇する合理的な根拠は認め難い。
〇平成12年3月期から平成13年3月期にかけての売上金額
及び売上総利益はいずれも微増したにすぎず、
平成13年3月期から平成15年3月期にかけては明らかな減少傾向
であったから、そこに役員報酬額が上昇する特段の事情は認められない。
〇平成12年3月期から平成15年3月期までの使用人に対する
給料の支給状況及び平成13年3月期から平成15年3月期までの
使用人最高給与額はいずれもほぼ横ばい。
〇入院以降の事業年度(平成13年3月期)の結果が反映する
平成13年4月以降に役員報酬額を上昇させる合理的な根拠はない。
〇類似法人の比準報酬月額は123万4885円ないし121万6108円
〇乙の適正役員報酬月額は平成13年3月時点の役員報酬月額130万円
結果として、過大役員報酬、過大役員退職給与とされた国税の処分は
適法とされた訳です。
なお、この事例は死亡退職の事例ですが、
生前退職であれ、役員報酬の増額と役員退職給与の関係は同じです。
いずれの場合であれ、下記のことが言える訳です。
〇役員退職給与の額を大きくしたいから増額することはリスキー
〇役員報酬の増額には下記を中心とした合理的理由が必要(法令70)
・役員の職務の内容
・法人の収益
・その使用人に対する給与の支給の状況
・その法人と同種の事業を営む法人で
その事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況
この10年は団塊の世代の方を中心に退職する事例が多くなりますので、
皆さんの事務所ではご注意頂ければと思います。