最終報酬月額の増額と役員退職給与の関係
※2018年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「最終報酬月額の増額と役員退職給与の関係」ですが、
大分地裁(平成20年12月1日判決)をご紹介します。
最後のメルマガなので、何を書こうか?と色々と考えた結果、
このテーマで書くことにしました。
事業承継税制が特例措置である10年間(もう残りはほぼ9年間ですが)は、
創業者社長の退職事例が多くなることと思います。
そこで論点になるのが、役員退職給与の額です。
一般的には「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」で計算されます。
しかし、在任年数を増やすことは不可能ですし、
功績倍率も非常識に高くすることは否認リスクを伴います。
そうなると、最終報酬月額を上げていくことを考える人も多い訳ですが、
安易な増額は過大役員報酬、過大役員退職給与のダブル否認と
なってしまいます。
実際、上記の大分地裁の事例もそうでした。
この事例を簡単にまとめていきましょう(3月決算)。
〇 平成12年1月:肺がんが判明し、手術
〇 平成14年3月頃:大腸がんが判明
〇 平成14年5月下旬:いったん退院
〇 平成14年6月上旬:再入院
〇 平成14年8月16日:死亡
この前提の下、役員報酬の推移は下記となっていました。
〇 平成13年3月まで:月額130万円
〇 平成13年4月以降:月額150万円
〇 平成14年4月以降:月額200万円
〇 平成14年8月16日:死亡
法人は形式上の最終報酬月額である200万円をベースに
役員退職給与を計算し、払い出しました(1億1,200万円)。
しかし、国税は過大役員報酬、過大役員退職給与と判断し、
増額前の130万円をベースに計算すべきと主張しました。
ちなみに、これで計算した役員退職給与の額は6,370万円です。
そして、裁判所は国税の主張を認めました
その理由は下記となります。
〇 平成12年1月の入院以降の乙の職務内容は
従前と比べて減少していたと認められるから、
その間業績が上昇する等の特段の事情がない限り、
入院以降に役員報酬額が上昇する合理的な根拠は認め難い。
〇 平成12年3月期から平成13年3月期にかけての
売上金額及び売上総利益はいずれも微増したにすぎず、
平成13年3月期から平成15年3月期にかけては
明らかな減少傾向であったから、
そこに役員報酬額が上昇する特段の事情は認められない。
〇 平成12年3月期から平成15年3月期までの
使用人に対する給料の支給状況及び平成13年3月期から
平成15年3月期までの使用人最高給与額はいずれもほぼ横ばい。
〇 入院以降の事業年度(平成13年3月期)の結果が反映する
平成13年4月以降に役員報酬額を上昇させる合理的な根拠はない。
〇 類似法人の比準報酬月額は123万4885円ないし121万6108円
結果は納税者敗訴です。
役員報酬が過大か否かは法人税法施行令第70条において、
〇 当該役員の職務の内容
〇 その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況
〇 その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が
類似するものの役員に対する給与の支給の状況
等により判断されることになっています。
これらの状況が整っているならば別ですが、
なかなか退職の段階でこれらの条件がそろっているケースは
厳しいことが多いと思われます。
創業者社長が入退院を繰り返しているにも関わらず、
売上が「役員報酬の増額率と同じ率で伸びている」という状況も
珍しいでしょう。
過去の他の事例でも「売上の増加率など」と「役員報酬の増額率」が比較され、
過大役員報酬の認定がされています。
上記の事例でも売上が13億→15億→20億と伸びていれば、
話は別だったかもしれませんが、なかなかそうはいきません。
結果、納税者が敗訴した訳です。
先日、ある方からこんなご相談を受けました。
〇 退職前数年間で生命保険を段階的に解約し、役員報酬を増額する。
〇 増額後の役員報酬をベースに役員退職金を計算する。
〇 これは大丈夫な方法か?
もちろん、私の回答は「否認リスクを大きく伴う」です。
来年以降の9年間は多くの創業者社長が退職します。
その中で税理士に役員退職給与が相談されることも多くなりますが、
上記の考え方をよく覚えておいてください。
今まで長きに渡ってご愛読いただき、誠にありがとうございました。
セミナーなど、またの機会にお会いしましょう。
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