最終報酬月額の増額役員退職給与の関係
※2018年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「最終報酬月額の増額と役員退職給与の関係」ですが、
大分地裁判決(平成20年12月1日判決)を取り上げます。
まずは、この事案を時系列でまとめます。
〇 平成12年1月:肺がんが判明し、手術
〇 平成14年3月頃:大腸がんが判明
〇 平成14年5月下旬:いったん退院
〇 平成14年6月上旬:再入院
〇 平成14年8月16日:死亡
そして、平成15年3月期において、
「200万円×16年×3.5=1億1,200万円」を
役員退職給与として支払ったのでした。
ちなみに、最終報酬月額とも関係する役員報酬の推移は
下記の状況でした。
〇 平成13年3月期:月額130万円
〇 平成14年3月期:月額150万円
〇 平成15年3月期:月額200万円(平成14年8月に死亡)
この前提の下、国税は
「130万円×14年×3.5※=6,370万円」が相当であるとし、
更正処分をしました。
※ 平均功績倍率:3.387
そして、大分地裁も更正処分を適法と認めたのでした。
大分地裁の判断は下記のとおりです。
〇 平成12年1月に肺がんで入院して手術を受け、
入院中は上記職務を電話等を使いながら行っていたが、
その後も抗ガン剤の投与のため二、三週間入院し、
さらに、平成14年3月ころ入院した際に大腸がんであることが判明し、
同年5月下旬にはいったん退院したものの、同年6月上旬に再入院し、
同年8月16日に死亡したことが認められる。
〇 乙の職務内容は、乙の役員報酬が増額された平成13年4月より以前の
平成12年1月から以降、闘病及び入院しての職務遂行であるから、
従前より減少していたと認めるのが相当である。
〇 平成12年1月の入院以降の乙の職務内容は従前と比べて
減少していたと認められるから、その間業績が上昇する等の
特段の事情がない限り、入院以降に役員報酬額が上昇する
合理的な根拠は認め難いところ、原告の平成12年3月期から
平成13年3月期にかけての売上金額及び売上総利益は
いずれも微増したにすぎず、平成13年3月期から
平成15年3月期にかけては明らかな減少傾向であったから、
そこに役員報酬額が上昇する特段の事情は認められず、
また、平成12年3月期から平成15年3月期までの
原告における使用人に対する給料の支給状況及び
平成13年3月期から平成15年3月期までの使用人最高給与額は
いずれもほぼ横ばいであったことに照らしてみても、
入院以降の事業年度(平成13年3月期)の結果が反映する
平成13年4月以降に役員報酬額を上昇させる合理的な根拠は
ないといわざるを得ず、このことは、類似法人の比準報酬月額が
123万4885円ないし121万6108円にすぎなかったことに
照らしてみても確認できるところである。
〇 乙の適正役員報酬月額は平成13年3月時点の
役員報酬月額130万円であると認めるのが相当である。
この判断は非常に妥当ではあるのですが、面白いのは次の論点です。
〇 同一人物につき、別の関係会社から支払われた役員退職給与
〇 役員報酬の推移は下記
・ 昭和60年頃~平成11年3月:月額150万円
・ 平成12年3月期、平成13年3月期:月額120万円
・ 平成14年3月期:月額88万円
・ 平成15年3月期:月額150万円(平成14年8月に死亡)
〇 大分地裁は「最終報酬月額は150万円が相当」と認めた
→ 国税不服審判所でも「150万円が相当」という判断
同一人物に支払われた役員退職給与にも関わらず、
役員報酬の増額の認否が分かれた基準は何でしょう。
それは「その会社の業績」です。
法人税法施行令第70条(過大な役員給与の額)では
「その内国法人の収益」も判断基準の1つとされています。
これが同じ人物に支払われた役員退職給与につき、
判断が分かれた理由なのです。
ここ10年は事業承継問題が大きく取沙汰される期間ですので、
役員退職給与のこともテーマに上がることが多くなります。
当然、役員退職給与の額、最終報酬月額のことも話題になりますので、
この事例を覚えておいて頂き、退職に向けた増額については、
十分にご注意頂ければと思います。
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