業務使用割合が明確でない家事関連費(判決事例)
※2022年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガから引続き、
「業務使用割合が明確でない家事関連費」を
取り上げますが、今回は有名な判決の解説です。
調査官がこの判決の前提および判断内容を
誤って理解し、否認指摘の根拠としてくる場合も
ありますので、正しく理解する必要があります。
東京地裁平成25年10月17日判決
(TAINS:Z263-12310)では、
保険代理店を営む個人事業主が、自宅家賃の
60%を必要経費として算入していたのですが、
裁判でも全額認められなかった事案です。
この裁判における争点は複数あるのですが、
今回は自宅家賃の必要経費のみ取り上げます。
【前提】
●自宅は3LDK・2階建ての戸建てで、
本人と共に家族が居住している
●自宅に代理店や顧客を招いて、商品説明や
セミナー等を開催していた
●納税者はリビング等を各業務の専用スペース
として常時使用していたと主張
●自宅家賃のうち60%部分を必要経費に算入
裁判所は下記のように判断し、
家賃の必要経費性を否定しました。
【判決要旨】
本件住宅は、全体として居住の用に供されるべき
3LDKの2階建て住宅であり、その構造上、
居住用部分と事業用部分とを明確に区分することが
できる状態にないことが明らかであり、Xが
その家族と共に本件住宅に居住していることを
併せて考えると、リビング等を本件各業務の
専用スペースとして常時使用し、それ以外の
用向きには使用していなかったとは考えられず、
むしろ、居宅である本件住宅において、Xが
家族と共に家庭生活を営みつつ、本件各業務に
関連する業務などを行っていたものと認めるのが
相当である。したがって、本件地代家賃等のうち
本件各業務の遂行上必要な部分を明確に区分する
ことができないから、事業所得の金額の計算上
必要経費に算入することはできない。
さて、判決とは前提事実をもって税法での解釈、
もしくは事実認定を行うものですから、
前提事実を変えた「たられば」は難しいのですが、
本判決に対して家賃が必要経費として認められた
であろうケースを考えると下記になるでしょう。
●リビングや寝室など生活をするに必須の
スペースを除き、「この部屋は仕事にしか
使用していない」など明確に区分している場合
⇒
前回解説したとおり、所得税施行令第96条から、
・主たる部分が業務の遂行上必要であること
・その部分が明らかにできること
を満たす必要があることから、自宅の全体もしくは
共用部分を按分して必要経費とすることには
ムリがある一方、部屋単位で区分するのであれば
必要経費として認められるはずです
●部屋単位などで明確に区分はできなくても、
主か従かでいえば主として事業用で使用している場合
⇒
前回解説したとおり、所得税基本通達45-2から
所得税施行令第96条における「主たる部分が
業務の遂行上必要」であるかどうかは、
全体の業務使用割合が50%超=必要経費
と判断できますので、家賃の按分は必須ですが
一部でも必要経費として主張しやすいでしょう
⇒
本判決のように「家族を含めた生活が主」であり、
「業務にも使用している」という場合は、
業務が従になるため家賃全額が必要経費にならない
個人事業主の家事関連費に関しては、
税務調査では否認論点になることを知りながらも
按分計算で必要経費に計上するわけですが、
所得税施行令第96条・所得税基本通達45-2
から、きちんと主張・反論できる論拠が
揃っている・明示できる状況でなければ
税務調査に耐えるのは難しいでしょう。
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